第254話 援軍には援軍を
「トライゾン様、わたくしから一つご提案がございます」
「バラドワイズか、申してみよ」
諸省の間に閉塞した空気が漂う中、控えていた紅いフードを被る女性バラドワイズが沈黙を破った。
「シェムスタ侯爵領の突破には失敗しましたが、帝国軍本隊はいまだ健在であり、コンクレイユ侯爵軍やレオニスの蜂起軍が帝都を直接攻撃することは現時点では不可能でしょう。そこで、無傷で残っている士官学校の学生の方々を、こちらの戦線に呼び寄せてみてはいかがでしょうか。そして、彼らに我らの周囲を飛び回る蝿のような敵軍の退治をお命じになられるのがよろしいかと」
「士官学校の生徒たちを? アヴァリスやデュカスらもか?」
「はい、勝敗は兵家の常とは言いますが、現時点で大きな功績がなければご子息の将来にも疑問が持たれるでしょう」
「…………」
「ですが、彼らは傭兵とは違いまかりなりにも士官学校で学んだ秀才たち、少数精鋭での行動は得意でしょう。それに、どうやら敵の増援の主力も、わざわざ東帝国から駆けつけたユルトラガルド家のご子息が率いる学生たちのようですので、より優秀なアヴァリス様たちを当てることができれば、優位に戦うことも十分可能でしょう」
「ふむ、なるほどな」
失態を犯したとはいえ、アヴァリスがディスられているようであまりいい気はしなかったトライゾンだったが、北方からの侵攻ルートが潰された以上、リヴォリ城の攻略に全力を注ぐ以外勝ち筋はないので、余剰戦力となった白竜学級の生徒たちをこちらの戦線に持ってくるのは合理的な判断と言えた。
現時点では、帝都タイラスルスからリヴォリ城までの間にユルトラガルド侯爵家の領土があり、各地をユルトラガルド家配下の伯爵たちが守備しているので、陸路から合流するのは難しかったが、海路から自由交易都市同盟を経由してくれば、白竜学級だけであればすぐに呼び寄せることが可能だろう。
それに、バラドワイズの言う通り、相手がこちらと正面から戦わない少数の士官学校生徒であるなら、こちらも士官学校生徒による遊撃部隊を編成すれば、一方的に攻撃される不利を覆すことも十分に可能だろう。
「よし、そうと決まればすぐにデュカスに書状を送ろう。あの小煩い敵がいなくなれば、リヴォリ城攻略にも本腰を入れられるし、何より反乱軍の中核のコンクレイユ家やアルトイリス家の領地を直接攻撃することも可能になるはずだ」
「書状はこちらで手配しますわ」
トライゾンはバラドワイズの提案に満足し、内心で「結局有能なのは自分とこの女だけだ」と思っていたが……ふと、あることを思い出した。
「そういえば、コンクレイユ軍はシェムスタ侯爵領を占拠したと聞いているが、アルトイリス軍には何か動きはみられるか?」
「アルトイリス軍は、私の部下の調べによれば、追加の増援となる兵士を訓練中のようです。間諜をアルトイリス領に忍ばせていますが、どうやら一日も早くユルトラガルド侯爵家を救うべく、さらに4000ほどの質の悪い傭兵を必死に訓練させているのだとか」
「4000か、それだけ纏まった数が来ると少々厄介ではあるな」
「とはいえ、報告では彼らがきちんとした戦力になるまで、あと数か月はかかる見込みだそうです。おそらく、東帝国に屯している最底辺の傭兵を、数合わせのためにかき集めたのでしょう」
「ふん、頭数を揃えようとも、所詮傭兵は傭兵、その程度の付け焼刃で正規軍に勝てるとも思えんが……用心に越したことはない」
「その件につきましても、わたくしに考えがございます。どうぞお任せを……」
どうやらバラドワイズは、また何か悪だくみを思いついたようだった。




