第253話 どいつもこいつも!
そんな思惑など露知らず、トライゾンは攻撃を続けていればいつかはリヴォリ城を落とせると信じていた。
アルトイリス侯爵家からの援軍が来たとしても、結局彼らにこちらを全滅させるだけの力は持っておらず、どれくらいの金や物資を浪費するかの違いでしかなかった。
しかし……ここにきて事態は一変することになる。
「侯爵閣下、たった今、帝都から急報が入りました」
「……バラドワイズか、急報とは何事だ」
「こちらをご覧ください」
紅いフードを被った怪しげな女性バラドワイズは、恭しく書状を差し出し、トライゾンはその内容に目を通すが……読んでいる途中で、書状を持つ手がわなわなと震え始めた。
その上、部下の前で滅多に感情を表さないはずのトライゾンの顔が急激に青くなったかと思うと、見る見るうちに顔が真っ赤になっていき、顔に深いしわが寄っていく。
「い……如何なされましたか、閣下」
「どいつも、こいつも……」
騎士の一人が勇気を出して恐る恐る声をかけたところで、とうとうトライゾンは噴火した。
「どいつも! こいつも! どいつもこいつも! なぜワシの邪魔をする! なぜ私の思い通りに働かない! 揃いも揃って無能ばかりだ!!」
彼は目の前にある机に両拳をダンッと叩きつけ、まるで子供が癇癪を起すように、喚き散らす。
その異様な光景に、ドヴォルザークを初めこの場にいる誰もが言葉を失い、ただただお互いの顔を見合わせるしかなかった。
ただ、トライゾンも一通り喚いてある程度すっきりしたのか、ふーっと深いため息をついたのち、いつもの威厳ある表情を取り戻す。
「……こほん、取り乱してしまったな。しかし諸君、これは……非常に由々しきことだ」
「閣下、いったい何が書かれておりましたので?」
「皇帝陛下率いる帝国正規軍が、シェムスタ侯爵領の国境でコンクレイユ侯爵軍に一方的な敗北を喫した。帝国軍は半数以上の兵力を失い、帝都タイラスルスに引き上げたとのことだ」
『帝国正規軍が!?』
出席者たちはトライゾンの言葉に、信じられないといった様子で驚いていた。
帝国軍の本隊が帝国の一諸侯相手に敗北するなど、今までの歴史ではありえないことであり、信じられないのも無理はなかった。
「で、では……アヴァリス様は!?」
「…………少なくとも、アヴァリスは無事のようだ。級友の連中も、ほぼ全員生き残ったらしい。それ以外の学級は全滅とのことだがな」
アヴァリスが無事と聞いて、この場にいる者たちはとりあえず安堵した。
また、マルセランも命辛々ではあるが帝都に戻ってきたので、彼らの正統性は何とか保つことができたようだ。
しかし、その希望はすぐに打ち砕かれることになる。
「だが、一つ拙いことがある。行方不明になっていたレオニスが生きていたという情報が入っている」
「なんと! それでは、マルセラン様の正統性が…………」
「ここで我らがリヴォリ城を落とせば問題ないが、もし長引けば帝都周囲の貴族が反乱軍に寝返りかねん」
行方不明のレオニスが決起する……その報告により、彼らの間にたちまち暗雲が広がるような、重苦しい空気が立ち込めた。
順調に進んでいたと思っていた計画が、いつの間にか苦しい立場に転がり落ちていたのだから。




