第251話 炎上フィナーレ
一方で、シャルンホルストの元で完全に統率が取れたアルトイリス兵たちは、乱れている敵の隙をついて目標への最短ルートを進み、さほど時間をかけずに資材や武器が集積されている貯蔵場に到達することができた。
「あっはははは! まずはあたしが一番乗り! それじゃあ、みんなアレをぶちまけちゃって!」
貯蔵場に真っ先に到達したのは、すべての騎兵の指揮を任された突撃大好き少女スーシェだった。
彼女とその配下の騎兵たちは、歯向かって来る敵兵を一気に馬蹄にかけて跳ね飛ばすと、腰に装着していた陶器製の小さな壺を手に持って、それをあちらこちらのテントに投げつけた。
あちらこちらで壺が割れると同時に、黒く粘り気のある液体がテントなどにまき散らされた。
そして、やることが終わった騎兵たちは即座にその場から離脱していき、彼らが立ち去った後は辺り一面鼻につく様な悪臭に包まれることになる。
「スーシェたちはやってくれたようだな! 最後の仕上げだ、派手に燃え上がらせて、最高のフィナーレと行こうか!」
「ククク、敵にとっては最悪のフィナーレだろうがな」
陣地内では、蹂躙された貯蔵庫を守ろうと、あちらこちらから兵士が駆けつけてきている。
そのタイミングを見計らうと、シャルンホルストは兵士たちに命じて、周囲の篝火を破壊して、燃えている薪を貯蔵場に投げ込ませた。
スーシェたちがまき散らしたのは……もちろん、先日ロパルツの兵たちを罠にかけた時に使った、ピッチ油だった。
萌える薪がまき散らされた油に引火し、それが瞬く間に燃え上がって、ついには物資が保管されているテントが多数炎上し始める。
もちろん、駆けつけてきた血気盛んな兵士たちは、この焼き討ち攻撃の巻き添えを喰らうことになった。
「わあぁぁぁっ!? わっ、わはぁっ!?」
「ひぃっ、油だ! 気をつけろ!」
「アッつぅい!?」
「よぉし、無事目標達成だ! さっさとずらかるぞ!」
武器貯蔵庫が盛大に燃え上がるのを見届けたシャルンホルストたちは、本格的に敵が追撃してくる前に撤退を開始する。
だがそこに、無様に奇襲を受けたことによる怒り委で顔を真っ赤にし、侵入者を皆殺しに銭とばかりに襲い掛かってくる大男がいた。
「ウオオォォ! クソガキどもがぁぁっ! 俺の陣地に夜襲を仕掛けるとは、余程命が惜しくないようだなぁぁっ! 全員その首を叩き折ってくれるわ!!」
「ちっ、ドヴォルザークのおっさんか。相変わらず声でけぇな……みんな、あいつにかまうな」
トライゾンに代わり南陣地の兵を指揮する将軍ドヴォルザークが、身の丈ほどもある大剣を担ぎ、恐ろしいまでの形相で追いかけてきたではないか。
力だけなら、コンクレイユ侯爵ベルリオーズや、ユルトラガルド侯爵ランツフートに匹敵すると言われる猛将相手では、流石にシャルンホルストたちでは荷が勝ちすぎるし、何より目的を達したのだからこれ以上付き合っているギリはなかった。
ドヴォルザークが来たことで、ブレヴァン侯爵軍もある程度混乱も収まって体勢を立て直しただけでなく、彼自身も得意の武器を振るって、撤退が遅れたアルトイリス兵を一撃で真っ二つにしていく。
残念ながら、撤退時に十数人ほどの死者が出てしまったものの、シャルンホルストたち自身は素早い撤退判断により、悠々と陣地を後にして暗闇に消えていった。
もっとも、ドヴォルザークはやられっぱなしが癪に障ったのか、追撃を試みようとするものの……
「逃げるな! 卑怯者ども! この俺が皆殺しにしてやる!」
「しょ、将軍! それよりも武器庫の火災が激しく、このままでは鎮火できません! まずは延焼を防いだ方が……!」
「ちぃっ! 奴らめ……次会った時は皆殺しにしてやる! 特にあのユルトラガルド家のクソガキ……楽に死ねると思うなよ!」
部下の騎士に、追撃より消火を優先した方がいいと言われ、憎々しい表情をしつつも、ドヴォルザークは渋々武器貯蔵庫の火災を食い止める方を優先するのだった。




