第25話 モントレアル領の戦い 4
そんなすったもんだはあったが、リクレールは気を取り直して、作戦通り村の北側から突入を開始した。
村の中からは、略奪にいそしむ魔族軍の怒号と、逃げ惑う人々の悲鳴が絶え間なく聞こえてくる。
「おいゴラァっ! 金のモン全部出さんかいワレ!」
「ひ、ひぇ~っ!? やめてくれーっ!?」
「食料も全部奪え! 麦の一粒たりとも残すんじゃねぇぞ!」
「だれかっ、たすけてぇっ! たすけ……え?」
「ガハハ、片っ端から奪って殺せ…………グワッ!?」
誰も見張りをしていなかったせいで、アルトイリス軍の接近に全く気が付いていなかった魔族軍らは、瞬く間に背後から襲われ、無防備なまま次々に倒されていった。
「オイ! ニンゲンだ! ニンゲンどもの軍が攻めてきた!」
「はぁ!? 今いいところだったのにぃ!」
「言ってる場合じゃねえぞ! 早く追い出せ!」
味方の悲鳴でようやく敵が攻めてきたことを知った魔族軍は、全く統率が取れないままバラバラにリクレールたちの方に向ってきた。
当然そんな状態では、エスペランサを振るうリクレールの敵ではなく、村の建物などの遮蔽を生かせないまま片っ端から撃破されていく。
そして、ある程度リクレールの方に魔族軍の意識が向いた時、西門と東門からシャルンホルストとサミュエルの部隊が突入した。
「今だ、突入するぞ! 横槍を入れてやれ!」
「リクレール様を援護するのだ」
西から攻め入ったシャルンホルストは、馬上から雷魔術を付与した魔術剣を振るい、一塊になっている敵に電撃の範囲攻撃をお見舞いする。
魔術剣の電撃を浴びた魔族たちはたちどころに体が痺れて動きが鈍り、そこにほかの兵士たちが群がって一網打尽にした。
一方で東から突入したサミュエルは、老齢にもかかわらず分厚い鎧を身にまといながら、右手に持つ棘付きメイスで魔族兵の頭蓋をカチ割っていった。
こん棒や斧、バックラーなどを構えて防御を試みようとする者もいたが、老人とは思えない力で振り下ろされる鉄球は武器や盾を一撃で粉砕してしまう。
大混乱に陥る魔族軍だったが、その中で多少知恵が回る者が何かを閃くと、近くにいた若い男性の村人を強引に引き寄せて、自分はその後ろに身を隠した。
「お、オイテメェッ! こ、これ以上近づいたら、こいつを殺すぞ!」
「ひいいいぃぃぃ!!」
首元に斧を突き付けられて人質にされた男は、恐怖のあまりその場で失禁する。
(エスペランサ!)
『お任せくださいませ』
リクレールは村人が人質にされたのを見て、止まるどころかむしろより強く踏み込むと、人質を盾にしていた魔族が斧を持つ右腕を根元から切り落とした。
「ア゛ア゛オ゛オォォォォォッッ!? ア゛ッ、ア゛ッ!? ア゛ア゛ッ!?」
「あ、あわわ……」
「安心して、もう大丈夫だから」
右腕を根元から切断された魔族の戦士は、激痛とショックで勇猛果敢な種族らしくない悲鳴を上げてのたうち回ると、やがて息絶えた。
人質になった男性は無事解放されたが、敵兵のあまりの残酷な死に様に、しばらく茫然自失となった。
「う……うわあぁぁぁ!!」
「やべえよあいつ、バケモンだ……!」
「話が違う、やってられるか!」
前後左右から攻撃され、人質も効果がないとわかると、魔族軍はこれ以上は戦えないと悟り潰走した。
彼らは唯一敵が来ていない南門に殺到し、味方を押しのけ踏みつぶしてでも逃げ出そうと試みる。
だが、地獄から逃げ出した先にもまた地獄が待っていた。
「村を荒らす卑劣で野蛮な連中に、私たちの怒りを身をもって味合わせるのよ!」
『応っ!』
村から這う這うの体で逃げ出してきた魔族軍の横から、ヴィクトワーレの騎兵部隊が暴風のように蹂躙を開始した。
彼女が持つ長柄槍は十二分に加速した馬の速度と質量によって、穂先に接触した敵の身体を文字通り粉砕し、勢いそのまま敵を団子のように次々にくし刺しにした。
あまりに勢いがすごすぎたせいで、一度目の突撃で槍は折れてしまったが、すぐに予備の槍を持ち出して再度突入すると、1回の往復で10体以上の敵兵を葬ったのであった。
こうして、2度目の会戦もアルトイリス軍の完全勝利に終わり、討ち取った魔族兵は先ほどより多い約500名に上った。




