第249話 召喚術士
軍隊が陣地を構築するとき、基本的に司令官がいる場所と食糧貯蔵場所は襲撃を受けにくい場所に作るのが鉄則であるが、意外にも武器や材料などの貯蔵場所はそこまで位置を重視されることはない。
特に矢などは、各部隊がすぐ使えるように利便性が高い場所に置いておくことが多いのだが……そこに目を付けた先進的な者がいた。
「ククク……やはり奴らは凡庸。ずさんな陣地構築に稚拙な見張り体制、そして何より未熟な兵士……戦いの基礎を疎かにする愚か者は、その血でもって代償を支払うのだ」
陽が沈み、篝火が煌々と照らす南陣地は、いつものように兵士たちが交代で夕食を採っている。
それを見計らったように闇夜から姿を現したのは、ゴスロリ風の改造制服を身にまとう女子生徒サンシールだった。
サンシールの後ろには、彼女に負けず劣らずの怪しい服装を纏った者たちが控えており、彼らはサンシールの合図とともに、呪文を詠唱し始めた。
陣地までの距離はおよそ20スリエ――――この距離では矢はおろか、長射程の魔法でも基本的に届かないのだが、彼女たちの術はこの距離からでも十分発揮するものだった。
「冥府の底、常闇の門を守護せし災厄の獣よ。 我が魔力をもって、その古き鎖を解き放たん。…………現世の愚者どもに、真なる絶望をくれてやれ! ――来たれ、冥界の三首犬!」
なんの変哲もない地面が突如黒く染まり、鎖がちぎれたような甲高い音がすると、そこからのっそりと三つの黒い狼のような首が現れた。
サンシールが召喚したケルベロスは、空腹なのか、三つの首から涎をだらだらたらしながら、篝火で煌々と照らされた陣地を凶悪な赤い目でしっかりと見据えていた。
「ククッ、さすがにコレの召喚は重いな……魂ごと持っていかれそうだ! 早く餌を食わせてやらねばな……! よし、行け」
サンシールが召喚したケルベロスを解き放つと、周囲の術者たちも思い思いのものを召喚し、敵陣地に向けて放つのだった。
そう、彼女たちは錬金術士と並び不遇とされる召喚術士……自身は攻撃する術をほぼ持たず、召喚するだけしたら戦力外となるが、今回はそれで十分だ。
「な……なんだあれは!? 敵襲だ!」
「ま、魔獣が襲ってきたぞ! 逃げろーっ!!」
突然闇夜から襲い掛かってきた、見たこともない三つ首の魔獣が現れたことで、陣地の入り口の見張りについていた兵士たちは、たちまち度肝を抜かれて戦意喪失した。
彼らは戦わずして武器を放り投げて逃げ出したことで、結果的に命は助かったが……見張りがいるからと安心していたほかの兵士たちは、戦いの準備もできないまま、召喚獣たちに蹂躙されることになる。
「ウソだろ、なんでこんなところに魔獣がいるんだ!? 見張りは何をやってるんだ!」
「冗談じゃないぞ! 今丸腰なんだ、戦えないぞ!」
「く、喰われる……誰か助けウギャアアアァァァァ!!!???」
統率が取れた騎士であれば、この程度の召喚獣の相手など容易い事なのだが、あいにく質の悪い傭兵たちはそんな実力があるはずもなく、襲い掛かってくるケルベロスに、あっという間にやられてしまった。
そうしてできたブレヴァン侯爵軍陣地の穴に、満を持して人間の部隊が突入することになる。




