第247話 シャルンホルストの父
リヴォリ城が包囲されて一月が経過した。
圧倒的な大軍に包囲されたことで、開戦当初から城兵は日に日に消耗していたが、最近になってから、アルトイリス軍の援軍が包囲する敵軍にちょっかいをかけているからか、敵の攻撃の勢いはかなり弱まっていた。
特に、東から攻撃してくるロパルツの軍と、北から攻撃してくるヨランドの軍からの攻撃がほとんどなくなってきており、その分の戦力を西と南に割くことで状況は次第に防衛側有利に傾きつつある。
「マリアが亡くなってから、アルトイリス軍の救援には期待できないと思っていたが……彼らは思いの外、ブレヴァン侯爵軍の攻撃を引き付けているようだな」
ユルトラガルド侯爵にして、シャルンホルストの父親であるランツフートは、要塞の上から包囲するブレヴァン侯爵軍の動きを見つつ、援軍によって戦況が安定してきたことに感謝した。
ランツフートは、ユルトラガルド侯爵家の特徴である深い緑色の髪の毛をオールバックにした、身長6スリエを少し越える偉丈夫で、戦場では常に緑一色の強固な鎧を纏った武人である。
仕事では妥協せず、自分にも他人にも厳しい人物であるが、普段は比較的陽気な人物であり、戦いがないときは酒と詩作をこよなく愛する文化人的な一面もある。
だが、首都が包囲されている今は酒も詩作も楽しむことも当然できず、常に城内の防衛設備を見回り、兵士たちの怪我や士気に心を砕く日々が続いており、いささか疲労気味な様子がうかがえた。
「それにしても……ここからではよく見えんが、アルトイリス軍は数が少なそうなのに、よくあの大軍を翻弄していると見える。あれはまるで……」
ランツフートの脳内には、士官学校に通っているはずの次男シャルンホルストの顔が思い浮かんだ。
ランツフートにとって、シャルンホルストは、まじめな長男と違い、悪戯好きで手がかかる息子であり、城をこっそり抜け出すなどしてはよく拳骨を喰らわせたものだが、自分にはない柔軟な発想を持っていることもきちんと知っており、内心では将来大物になるのではと期待していた。
援軍に来たアルトイリス軍が、常識にとらわれない動きでブレヴァン侯爵軍の翻弄しているのを見ると、不思議とそこにシャルンホルストがいるように思えるのだから不思議なものだ。
そして、実際それは当たっており、いかにこの親子の絆が深いかがよくわかる。
とはいえ、アルトイリス軍の援軍が来たからと言って、完全に安心はできなかった。
むしろ、今のままでは自分たちが勝つのはまだ難しいだろうとも考えている。
「あいつらが活躍しているのはありがたい事ではあるが……やっていることはせいぜい嫌がらせだけ、落城までの時間稼ぎでしかない。どこかで決定的な一撃がなければ、今のままでは城壁意を少しずつ崩された上で総攻撃を受ければ落城は免れん。しかし、俺たちに何ができるだろうか……」
ランツフートの言う通り、外にいる僅か2000人ばかりの援軍では、最終的に敵の野戦軍を倒すことは不可能だろう。
戦局はやや有利になったとはいえ、勝利までの道筋はいまだ見えないでいた。




