第246話 偽兵の計 6
これにより、一心不乱に町を攻撃していたブレヴァン侯爵軍は、突然周囲の森から大量の敵の旗が現れるのを目撃することになり、しかも、すさまじい音量の喚声から、自分たちがとてつもない大軍に囲まれたことに気が付いた。
「ば……バカな!? こんな時に敵の伏兵だと!?」
「まずいぞ、ものすごい敵の数だ! へ、下手すると俺たちより多いんじゃないか!?」
「しまった、これは敵の罠だ!! 撤退だ、皆殺しにされるぞ!」
左右のどちらを見ても敵の旗が大量にたなびき、しかも勢いよくこちらを包囲するように向かってくるのを見たことで、略奪に目がくらんでいたはずの傭兵たちの士気は一気にマイナスへと転落した。
なにしろ、これまで仲間たちが散々敵の罠にはまり、伏兵で大被害を被ったことを耳にしてきたので、いざ自分がその立場に陥ったとわかると、誰もがパニック状態だった。
そしてなにより……一番慌てふためいたのは総大将のヨランドだった。
「ざ……ザマス!? これほどの大軍がいたなんて知らなかったザマスわ! て、撤退撤退! 撤退ザマスううぅぅぅぅぅーーーーーーっ!!!!」
「よ、ヨランド様!?」
「もうだめだ、早く逃げるぞ!」
軍の最後尾でふんぞり返っていたヨランドは、撤退撤退と喚きながら、まだ戦っている配下たちを顧みることもしないまま、側近たちだけを連れて戦場から逃走していった。
それを見た周囲の兵士たちも、慌てて彼女の後を追って逃げ出し、それが連鎖することでブレヴァン侯爵軍は一気に潰走状態となった。
こうなると、寄せ集めの傭兵のもろさが露呈し、秩序だった撤退などできるはずもなく、森に挟まれた街道で味方を押しのけてでも撤退しようとする者たちで大混乱。
そこを、森に隠れていた伏兵たちが挟み撃ちするとともに、陣地にいたアルトイリス軍まで攻撃に転じたことで、戦場は阿鼻叫喚と化すのだった。
「いやだ、死にたくない! 助けてくれぇっ!」
「くそっ! 邪魔な味方め、どけっ! 俺様のために道を開けろっ!」
「降参だ! 俺は降参する、だから危害を加えないでくれ! 頼む!」
絶望で泣き叫ぶ者あり、味方を斬り殺してでも逃げようとする者あり、戦う気が完全に砕け、武器を捨てて降伏する者あり……
町への攻撃に加わっていた兵士たちの大半は逃げることができず、実に2000人近くの敵兵が戦死、もしくは戦闘不能という大損害を被ることになったのであった。
「レムリア! やったわ、私たちの勝利よ!」
「ああセルニ、ご苦労さん。それにしても、モンセーの策は本当にすごいな……あっという間に、元気いっぱいだった敵がパニックになって逃げだしちゃったよ」
「偽兵の計……ね。まさか、村人たちを使って見た目の兵力を水増しするだなんて、私には考え付かなかったわ」
先の戦いで、町を攻撃していたブレヴァン侯爵軍は、突然周囲の森から自分たち以上の数の軍勢が襲い掛かってくるように見えたが…………じつは、中身の大半は脱出のためにタウラゲの町にとどまっていた村人たちであり、彼らは戦いに参加することなくひたすら後ろで旗を振り、大声を上げているだけだった。
もし相手が冷静沈着な将だったなら、このような小細工を見抜けたかもしれないが、ヨランドには見破るだけの知能がなかっただけでなく、大将自らが真っ先に逃げ出すという醜態をさらしたのである。
こうして、自信満々に敵を叩き潰すはずだったヨランドは、這う這うの体で自陣に逃げ帰ることとなり、青狼学級や逃げ遅れた村人たちも、妨害を受けることなく順次オキメイ村に帰ってくることができたのであった。




