第242話 偽兵の計 2
紫鴉学級に所属してまだ数か月の新入生アウグストは、リクレールたちの送別会の時に美味しいパンケーキを作ってくれた、かわいらしい黒髪の男の子である。
アウグストは元々東帝国の帝都アルクロニスの孤児院出身だったが、診療所で献身的に働いたことで医療スキルを身に着けたことで、支援を得て衛生兵の道を志し、さらに学識も開花したことで士官学校に入ったというかなりの異色の経歴の持ち主だった。
そんなアウグストは、今回の従軍でも怪我をした兵士を治療する衛生兵として活動することになったが、まだけが人が出ていない現在は、その料理の腕を買われて兵士や労働者たちに、美味しい料理を大量に賄う料理人の仕事をしていた。
「モンセー先輩、僕を呼びましたかっ!」
「あぁ、すまないが君には敵中で孤立する青狼学級の連中の支援に向ってほしい。君を前線に送るのは少々心苦しいが……彼らを助けてやってくれ」
「大丈夫です! むしろ、僕だけ後方にいて、みんなの役に立っているかどうか不安だったから……」
「そう言うな、何事にも適した位置というのがある。それとも君には、私が役立たずに見えるか?」
「そ、そんな! 滅相もないです!」
「僕は役立たずだけどね、あはは~」
暢気なことを言うオスカーを無視するように、モンセーはアウグストに急ぎ衛生兵部隊を編成して、迎えに出すはずだった船に乗って青狼学級の生徒たちがいる町に向かうよう指示した。
その際モンセーはアウグストに何かが書かれた手紙を手渡した。
「中を読んでも構わないが、必ずレムリアに手渡してくれ。少しは役に立つだろう」
「う、うん! わかった!」
こうしてアウグストは、次の日には衛生兵100人を引き連れて輸送船に乗り込み、合流予定の町へと向かった。
彼らが向かっているのは、ミッドルタ大河の下流に位置する町タウラゲ――――下流に位置する自由交易都市同盟の港町に品物を運ぶための桟橋が数多く用意されており、船で出入りするにはうってつけの場所と言えた。
また、地形的にも町の北側は大河に面しており、一本伸びる街道がある以外は森や崖に囲まれた土地であることから、敵からの攻撃方向が限定されるため、いざとなった時に守りやすいのも特徴である。
この町の住人たちはすでにブレヴァン侯爵軍の攻撃から逃れるために自由交易都市同盟に避難しており、今いるのは青狼学級の生徒たちと、逃げ遅れた大勢の平民だけだった。
「やあアウグスト! まさか君が来てくれるなんて!」
「無事だったんですねレムリア先輩。ほかの先輩方も元気みたいで、本当によかった!」
「無理を言って本当に悪かったよ。モンセー怒ってなかった……?」
「そ、それは……」
「やっぱり怒ってたか、ははは」
仲間たちと決断したとはいえ、紫鴉学級たちと取り決めたことを破ってしまったことを思い、レムリアは改めてばつの悪そうな顔をした。
だからと言って彼女がやることは変わらない。無力な人々を、無事に安全圏まで送り届けるために戦うのだ。
現在町の周囲では着々と工事が進んでおり、大勢の敵の攻撃に晒されても耐えられるよう、防壁の建設や堀の掘削が行われている。
5倍の敵相手にどれだけ耐えられるかは不明だが、彼らはこの一戦に全力を尽くす覚悟だ。
「それとレムリア先輩、モンセー先輩からこれを預かってきました」
「手紙か……お小言でも書いてあるかな」
レムリアは覚悟のうえで手紙を手に取り、内容をじっくり読み進めると、何やら神妙な様子で頷き始めた。
「なるほど、その手があったか。やるからには徹底的にやれってことなんだな」
どうやらそこには、モンセーからの秘策が記載されていたようだった。




