第241話 偽兵の計 1
ユルトラガルド侯爵領救援軍の最終陣地となっているオキメイ村では、車椅子の女子生徒モンセーの指揮により、現在多数の労働者によって陣地の要塞化が進んでいる。
遊撃戦を行うことができないモンセーは、自分ができることを最大限やらねばという思いの元、後方から味方と敵の動きの把握に努め、戦いに支障をきたさないよう物資の管理も怠らなかった。
そんな彼女のところに、ミッドルタ大河の下流――青狼学級たちの脱出地点から連絡用の小舟がやって来た。
「モンセー、青狼学級から連絡があったようだよ」
「ありがとう」
小舟から手紙を受け取ったのは、同じく陣地に残って後方支援に専念している、橙鷹学級級長のオスカーだった。
今この段階で連絡が来たのは、予定通りに脱出の準備が進んでいるのだろうと思っていた二人だったが…………モンセーが手紙を読み進めていくうちに、徐々に顔が険しくなっていった。
「……何を考えているんだあいつらはっ!」
「ど、どうかしたのかいモンセー?」
「どうもこうもあるかっ! あいつら、村人たちを逃がすために脱出用の船を使うとほざいている!」
「ええっ!? そ、それじゃあ青狼学級のみんなは!?」
「村人が全員脱出するまで、町で防衛線を築いて時間稼ぎするんだと。しかも5000人近くいるから、全員脱出できるまで往復で船を出せと…………それがなんだ! そんなの放っておけばいいだろうに! あいつらは自分たちの目的を忘れたのか!」
「それはそうだけど……でも、青狼学級のみんなは責任感が強いから、見捨てられなかったんだと思う」
「だからと言って壊滅的な被害を被ったら、元も子もないだろうに…………」
そう言ってモンセーは車椅子の上で頭を抱えた。
青狼学級は「あの」エンヴェルを輩出した学級だけあって、白竜学級並みに英雄願望が強い人間が大勢いる。
勇敢なのは結構なことだが、モンセーからしてみれば、引き際を誤っているとしか言いようがなかった。
「とにかく、民間人を乗せて戻ってくるのは却下だ。予定通り戻ってくるように伝えなければ」
「まあまあモンセー、落ち着いて」
「私はいつも落ち着いている」
「そうじゃなくて、だね……その……」
「なんだ、言いたいことがあるならはっきり言え」
「えと……」
オスカーは同言葉を伝えようか迷っているようで、少しの間目が泳いだが、自分の中で納得がいったのか再びモンセーの方を向き直る。
「たぶん、レムリアのことだから、もしモンセーの言うことをそのまま伝えても、無視して村人たちを運んでくると思う。なら、いっそのこと、彼らが無事に帰ってこれるようにお膳立てしてあげた方が建設的かなと思って…………」
「……言われてみればその通りだ。青狼学級の連中は、一旦火がつくと止まらない暴走機関車みたいな連中だからな。となると……」
「うん、レムリアたちならそうするかな」
オスカーは、モンセーが考え込んでいる間もずっと彼女の車椅子を押していた。
そのかいあってか、モンセーはようやく落ち着きを取り戻し、再び手紙に目を通す。
「……村人が5000人近くいる、か。であれば、しばらくはそれなりの数を残さなければならない。であれば、発想を転換するか」
「おっ、何かいい考えが思い浮かんだ?」
「出来るかどうかはあいつら次第だがな。すまないが、アウグストを呼んできてくれないか」
「アウグスト君を? わかった」




