第240話 青狼の狩り 10
本当はここまでするつもりはなかった。しかし、戦っているうちに情が移ることは往々にしてある。
青狼学級の生徒たちは、あくまでこの周囲を略奪して回る傭兵たちを、油断している間に各個撃破するのを目的としていたが、それは結果的にこの地域の村や町を敵の略奪から守ることにもつながっており、避難できていなかったユルトラガルド侯爵領の平民たちから多大な感謝を受けた。
そのせいか、彼らはいつしか略奪する傭兵たちから人々を守るということを無意識に考えてしまい…………作戦終了日が迫った今も、そう簡単に彼らを見捨てることができなかった。
「……避難できていない人たちはあとどれくらい残っている?」
「たぶん、まだ1万人くらいいると思うわ。あと3日あれば、その半分くらいは北の方に逃がすことができると思うけど、それ以上は難しいわ」
「となると、5000人くらいを私たちが何とかしなきゃならないわけか」
もちろん、彼らにそこまで面倒を見る義務はないのだが、ここで見捨てたとあっては目覚めが悪いのも確かだ。
そうこうしているうちに、敵は周囲の村々を虱潰しに占領し、いずれは避難が完了していない場所にまで迫ってくることだろう。
そうなれば、平民たちの運命は…………
(エンヴェル先輩であれば、こんな時どうするか……)
レムリアの頭によぎったのは、かつて青狼学級で級長を務め、今はリクレールの親友のセレネと共に、魔族討伐軍で活躍しているエンヴェルの顔だった。
彼は実に英雄的な人物で、おそらくこんな時でもかえってやる気を出して、自分たちの数倍はある敵と真っ向から立ち向かうだろう。
果たしてレムリアにも同じことができるのだろうか……彼女はしばらく自問自答していたが、やがて結論を出した。
「みんな、ボクのわがままで申し訳ない。もうしばらく、力を貸してほしい」
「いいわよ、初めからそのつもりだったし。みんなもいいわよね?」
「ここまできたら最後まで付き合うよ」
「私たちにできることがあれば何でも言ってちょうだい」
青狼学級の生徒たちはレムリアのわがままを聞いてくれた。それだけでなく、橙鷹学級の生徒たちや、アルトイリス兵たちも文句ひとつ言うことはなかった。
彼らの言葉に、レムリアは満足そうにうなずいた。
「よし、そうと決まれば早速作戦会議だ。決戦の場所は、迎えの船が来るこの町……周囲を森に囲まれて、道が細くて大勢の部隊を展開しにくい。敵をここに誘導して、機を見て反撃に出る。そうすれば、村人たちの避難の時間が稼げるだけじゃなくて、相手に痛手を与えることもできるはず」
作戦会議の後、彼らは手分けして各地の村に急ぎ、まだ避難が完了していない人々に脱出を急ぐよう促すとともに、迎えの船が到着する予定の町で防備を固め、最終的にこの地で防衛するための準備を整え始めた。
シャルンホルストに「無茶は禁物」と言われたにもかかわらず、彼らは今、ハイリスクハイリターンな選択肢を採ったのであった。




