第24話 モントレアル領の戦い 3
「みんな、無事? 死者は? 大怪我している人は?」
「リクレール様、怪我人が多少出ましたが全員命に別状はありません。怪我をした者も、シャルンホルスト様の衛生兵によってすぐに治療されることでしょう。リクレール様も、ご無事で何よりでございます」
「ありがとう。でも、これで終わりじゃない、作戦はまだ始まったばかりだ。次の村に急ごう」
サミュエルから味方の死者なしの報告を受けると、リクレールは小休止をはさんですぐに次の敵部隊を撃破すべく行動を開始した。
移動している間に、馬に乗ったシャルンホルストがリクレールに並び話しかけてきた。
「リク、まずは初勝利おめでとう」
「ありがとう、シャル。もう無我夢中だったよ」
「まったくな、まるで別人みたいな恐ろしい剣捌きだったよ。それもその魔剣のおかげか」
「うん……聖剣アレグリアが姉さんの力をさらに引き出していたのと同じように、この剣にも僕の強さを底上げするような力があるみたいだ」
「そうか、それは心強いが……あまり新しい力を過信しすぎないでくれよ」
シャルンホルストも自身の部隊を指揮しながらリクレールの様子を見ていたが、濃紫の大剣で屈強な魔族をあっという間に十数体切り殺したその姿は、今までになく恐ろしいものだった。
親友が何か悪いモノにとり憑かれていないか、シャルンホルストは内心とても不安だったが、すぐに次の戦いのことに頭を切り替える。
「それで、次の敵についてだが、斥候の報告だともう村の中に侵入しているらしい」
「このままだと村の中での戦闘になるか。数の優位が生かしにくいし、部隊をいくつかに分けなきゃいけないし、トワ姉の騎兵も使いにくい。そして何より」
「魔族の連中が村人を人質にする可能性があるな」
次に近くにいる魔族軍はすでに村の門を破り、略奪を始めているようだった。
このまま敵が油断しているところを襲うことはできるが、リクレールが言うように柵で囲われている小さな村の内部は建物があるせいで狭く、部隊を展開しにくい。
その上、まだ生きている村人を盾にされたら非常に戦いにくいし、何より制圧に時間がかかって戦況が悪化する恐れがある。
「まずは僕が主力を率いて北門から突入する。敵が僕たちの方に意識が向くだろうから、少し後にシャルが西門から、サミュエルに東門から攻撃してもらう」
「リク、私たちは南門から攻めればいいのかしら」
後ろで話を聞いていたヴィクトワーレがそう言いながら作戦会議に加わった。
「トワ姉は南門担当だけど、やってほしいことがあるんだ」
「やってほしいこと?」
「僕たちの作戦がうまくいけば、魔族軍は南門から逃げ出そうとするはず。トワ姉には村の外に逃げ出した敵を一網打尽にしてほしい」
「なるほど、私たち騎兵は村の中だと機動力が生かせないから、開けた場所に逃がすのね。なんだか私たちだけ追いはぎしているような気分だけど、敵を全滅させられるかどうかは私たちの頑張り次第ね」
こうしてアルトイリス軍は一時的に4部隊に分かれ、それぞれが村の四方の入り口へと向かった。
まずはリクレールの部隊が突入する、のだが……
「みんな、準備はいいか」
『おーっ!』
「お……おぉふ」
兵士たちの中から一人だけ明らかに弱々しい声が聞こえた。
何事かとリクレールが声がした方を見れば、そこには部下に両脇を抱えられながら息を切らせて歩く、重厚な鎧を身にまとった太っちょ貴族の姿があった。
「が、ガムラン!? 具合悪そうだけど大丈夫?」
「この通り、ガムラン様は運動不足でグロッキーっす」
「ぜぇ、ぜぇ……リクレール、様……私は、まだ、たたかえ、ますぞ! げほっ、おえっ」
「いやいやいや、無理しなくていいから! 何人かと一緒にそこで休んでて!」
ただでさえ不摂生な体のせいでリクレールすら下回る低スタミナに加え、大金をはたいて買った立派な全身鎧があまりにも重すぎて、すでに歩くのすらおぼつかない様子だった。
流石のリクレールもあきれてものが言えず、仕方なく輜重部隊の護衛という名目で、何人かの兵たちと共に後ろに下がらせた。




