第239話 青狼の狩り 9
一時的に二手に分かれていた青狼学級の部隊は、敵意の攻撃が一時的に止まった現在、指定された集合場所に集まって今後の対応を話し合っていた。
「なんだか急に静かになったわねレムリア」
「この程度のことで引き下がる連中ではないと思う。しかし、何を考えているのか分からないな……」
「けど、このまま指をくわえてみていたら後手を踏んでしまうかもしれない。その時になって慌てても遅いわ」
「うーん」
レムリアたちを初め、生徒たちはヨランドの軍がここ数日全く出てこなくなったことに首を傾げ、何を考えているのか意見を出し合ったが、決定的な答えは出てこなかった。
自分たちはかなり少人数なので、もし敵がうまい作戦を練ってくれば、下手をすると自分たちは一網打尽になりかねない。
「とはいえ、1回目の作戦はあと3日で終わりだし、例え敵が来たとしても、時間稼ぎしながら撤退すればいいんじゃないかしら」
「そうか……そういえばもうそんな時期か。なんだか中途半端に終わった気がするけど、元々一時的に掻きまわすのがボクたちの役目だし、みんなも大分疲れているからね」
副級長のセルニの言う通り、彼らは撤退する日にちが決まっており、後3日後にはオキメイ村の陣地から迎えの船が来る手はずになっている。
なので、今更作戦を練ったところでタイムオーバーになるだろうと大多数の生徒は考えていた。
(けど……本当にそれでいいのか?)
なにか胸の中がもやもやするレムリアは、意を決して今回の作戦の禁忌を破ることにした。
「ローレル先生……質問いいですか?」
「言っただろう、私は今回手出しはしない、お前たちだけで考えて決めろとな」
「わかっています。分かったうえで質問します、先生には敵の狙いがある程度見えるんですか?」
「やれやれ」
生徒達が意見を言い合うのをずっと黙ってみていたローレルだったが、レムリアは今はそのようなことを言っている場合ではないと思い、あえて約束を破って質問を投げかけた。
だが、ローレルは不機嫌になるどころか「やはり来たか」と言いたげに不敵な笑みを薄っすらと浮かべていた。
「そうだな、こういう時は発想の転換が必要だ」
「発想の転換、ですか?」
「仮にお前たちが敵の立場なら、お前たちの存在をどう思う? どう対処しようと思うか? そこから逆算すると、案外見えてくるものがある。数日前から、あの連中は馬鹿正直にまとまった軍を動かして、我々の動きに釣られて右往左往していたが…………そろそろ、それが非効率だと気が付く頃だ。そうなると、考えられる手段は大きく二つある。それは何だと思う?」
「大きく二つ……そのうちの一つは、たぶん徹底的に無視すること、でしょうか。そしてもう一つは……徹底的に叩き潰すか。…………まさかっ!」
レムリアがようやく一つの答えに行き当たった時、ちょうどいいタイミングで偵察に出ていたアルトイリス兵が慌てた様子で駆けつけてきた。
「報告します! ブレヴァン侯爵軍が再び出陣しました! 規模は掴みの数で、5000人以上になると思われます!」
「5000人!? そ、そんなに!?」
「い……いくら何でも本気出しすぎじゃない!?」
「そりゃそうだろ、お前たちの大活躍で敵は本気を出したようだぞ。よかったじゃないか」
「よくないですって! いくら何でも5000人相手は今の私たちでは無理です!」
「と、とにかく……今は安全に撤退できる方法を考えましょう!」
いくら何でも自分たちの5倍以上いる相手と戦うのは無謀だと判断したレムリアたちは、敵とやりあう前に素早く撤退する方向で考え始めたのだが……その時彼女はふと、あることを思い出した。
「そういえば…………まだ避難できていない村の人たちがいたっけ」
「……あっ」
彼女たちの上に、また一つ難題が重くのしかかった。




