第238話 青狼の狩り 8
「なんて逃げ足の速い連中だ!」
「どうやら敵はこのあたりの地形を熟知しているようです。敵がどのように移動しているのか、どこから現れたのか、見当もつきません……」
「ムムム……その上、連中は森から奇襲してきたとも聞いている。危険な地形に誘い込まれたら、無用な被害が出てしまいかねないな」
ヨランド配下のブレヴァン侯爵軍が敵軍を探し回って数日経過したが、一向に敵部隊を捕捉することはできなかった。
斥候が何度も敵の位置を報告するのだが、敵はこちらの動きを掴んでいるのか、見つかるや否やすぐにその場を離れ、いずこかへと姿をくらませてしまう。
それに……ブレヴァン侯爵軍はこのあたりの地理をよく知らない上に、遠征の準備などはしていないので、出撃して何も見つからなければすぐに陣地に引き返す必要がある。
一応、相手が軍を分けていることと、正面から戦う気がないというのは何となくわかったが、だからと言って放置できるものではない。
さらに、傭兵たちを率いている騎士たちには別の悩みもあった。
「最近めっきり略奪できないことで、傭兵たちの士気が低下している。なんとかせねば」
「ヨランド様も日に日に癇癪が募っている。このままでは、下手すると我々が手打ちに会うぞ」
そう、彼らは味方である傭兵や上司であるヨランドの機嫌も取らなければならない。
そのためには何としてでも逃げ回る敵に痛撃を与え、自分たちの立場を守らなければならないだろう。
「こうなれば、危険を承知で敵地に踏み入るほかない。遠征陣地を設営し、敵が現れたら即座に対応できるようにするほかあるまい」
「それしかないか」
こうして騎士たちは改めてヨランドに上申し、今のまま正面から戦っても埒が明かないことと、危険を承知で敵地奥深くに侵攻する必要があることを伝えた。
「ふむ、そなたらの言うことはもっともザマス。邪魔者は手早く排除するに限るザマスわ」
「ははっ」
ヨランドは意外とこういう時に物分かりがよく、逃げ回る敵に痛手を与えるには、その根本を破壊しなければならないと考えた。
彼女は直ちに出撃軍に10日分の物資を用意させ、数の差で敵を追い詰める作戦をとることにした。
すなわち、今までは略奪にとどめていたユルトラガルド侯爵領の村や町を占領し、逃げ場をなくしていこうという魂胆だった。
こういった戦略は、バラバラに襲い掛かってくることが多い魔族軍を相手にするときによく用いられるもので、ヨランドは逃げ回る人間の軍にもそれを応用する気のようだ。
「しかし、その前にやることがあるザマス」
「やること、と申しますと?」
「東陣地のロパルツが敵の罠にはまって恥をかいたと聞いたザマス。そのせいで、奴らは陣地に籠りっぱなしと聞いたザマス。ホホホ、これだから無能は困るザマスわ!」
「はぁ……それがどうかなされたので?」
「ロパルツは兵を死蔵しているザマスが、罠にかかったことは侯爵には秘匿しているザマスわ。そこを揺さぶって、奴が抱えている傭兵を横取りして兵力を増強するザマス」
「な、なるほど!」
そう、ヨランドがロパルツに兵をせびりに行ったのは、青狼学級がヨランドたちの楽しい略奪を妨害したため、その討伐軍を編成するためであった。
もはやヨランドにはリヴォリ城を攻め落とすことより、快適な略奪ライフを送る方が重要になっていたのだった。
ヨランドは改めて騎士たちに出撃準備を命じると、自身は東の陣地に赴き、ロパルツに失態を公表しないことを交換条件に、ロパルツから傭兵を2000人ほどカツアゲすることに成功した。
そして、その3日後には本気で青狼学級の遊撃隊をあぶりだすべく、ヨランド自ら5000人の兵を率いて北の森林地帯へと向かって行ったのだった。




