第231話 青狼の狩り 1
紫鴉学級のチームがゼークトを中心にロパルツの軍をおちょくっていたのと同じころ、別行動部隊となった青狼学級をはじめとする1000名は、オキメイ村に構築した1つ目の陣地から船でミッドルタ大河を下り、密かにリヴォリ城の北の方に上陸した。
このあたりは大きな森林地帯が何か所も広がっており、ところどころにユルトラガルド侯爵領の産業を支える木材や毛皮、鉱石などを生産する村が存在しており、青狼学級たちが降り立ったのも、下流の港に木材を運搬するための港であった。
彼らはなぜ、主要な戦線から遠く離れたこの場所にやってきたのか…………
「すまない、俺が案内できるのはここまでだ」
「いや、大丈夫だ。君が用意してくれた地図があれば、ボクらは大体の位置がわかる。それにしても、君はずいぶん大胆なことを考えたね。まさか川を下って敵の背後に回って、油断している敵を削っていくだなんてね」
「何しろ北の陣地にいるのが、あのヨランドのクソババアだ。うちの領地があのババアのせいでだいぶ荒らされたが……故に付け入れる隙は十分ある。お前も聞いたことがあるだろう、かつてブレヴァン侯爵軍が魔族との戦いで、敵の追撃よりも魔族が落とした戦利品の略奪と、素材の剥ぎ取りで、みすみす追撃の好機を逃したっている。その時の前線指揮官があのババアだ」
「ふぅん、そんなのでも使わなきゃいけないなんて、敵はずいぶんと人材不足のようだね。ま、それでも向こうの方が数は圧倒的だし、ボクたちも気を引き締めて、君の代わりにそのババアの横っ面をぶん殴ってきてやるさ」
案内の為、ここまで彼らを送ってきたシャルンホルストは、青狼学級の級長レムリアに戦場の北側での遊撃を依頼した。
なにしろ青狼学級は士官学校の中でも特に屋外活動に重点を入れており、その気になれば学級全員で山の中で1か月近く過ごすことも可能というアウトドア強者なのである。
紫鴉学級も屋外での学習には比較的積極的だが、彼らは次元が違う。もっとも、一部加わっている橙鷹学級の生徒たちはかなり大変だろうが。
そして、青狼学級のチームはその機動力を生かし、積極的に略奪を繰り返すであろうヨランドの部隊を各個撃破し、相手に出血を強いるという戦略を立てていた。
シャルンホルストがかつてリクレールと共に魔族の残党軍を倒したときの話を、レムリアたちにも事前に話してあり、相手の数が多い場合であっても兵力を分散させているときに叩けば、十分な戦果を挙げることができるという狙いがあった。
「だが、いいか、何度も言うようだが……」
「無茶はするな、だろう? わかっているとも、今は無理すべき時じゃない。僕たちはあくまで「この辺にいる」ことが重要だってね」
そう言ってレムリアはシャルンホルストに対してかわいらしくウインクした。
そんな時、彼らの後ろから青狼学級担任のローレルの声が聞こえてきた。
「レムリア。仲がいいのは結構だが、ほかの学級の級長に色目を使うな」
「色目なんか使ってませんよーだ! ってわけで、うちのセンセイがうるさいから、そろそろ行ってくる」
「ああ、頼んだ。ローレル先生も、よろしくお願いいたします」
「言っておくが、迎えの船が遅れたらタダではすまんからな」
「……肝に銘じます」
こうして、シャルンホルストは青狼学級の生徒たちを送り出した後、彼らを乗せてきた船と共に陣地へと戻っていった。
彼らは見知らぬ土地に取り残されたことになるが、その表情に不安は一切なかった。
「では諸君、狩りの実戦を始めよう」
『おーっ』
レムリアの号令に従い、彼らは迷うことなく森に続く道を進んでいった。




