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第23話 モントレアル領の戦い 2

 リクレールは背負っていた魔剣エスペランサを両手で持ち、兵士たちの先頭を足早に歩くが、彼の心臓はすでに周囲の音をかき消すかのようにバクバクと体中に響き渡っており、緊張で全身から幾筋もの汗が流れていた。


(とうとう……戦場に立ってしまった。訓練でも、誰にも勝てたことがない僕が……姉さんすら命を落とす魔族相手に、勝てるんだろうか?)

『勝てますとも。わたくしにすべてを委ねていただければ、瞬く間にすべてが終わることでしょう』


 緊張のあまり鼓動が暴れる音しか聞こえなかった世界に、エスペランサの優しい声が響くと、不思議と心音が落ち着きを取り戻しはじめた。


『まだ不安でございますか? では主様メーテル、少しだけ目を閉じていただけますでしょうか』

(……?)


 リクレールは言われるまま歩きながらゆっくりと目を閉じる。


『わたくしの力、少し強めに開放いたしますわ。主様には、もっとわたくしの力に魅力を感じていただけることでしょう』


 リクレールの唇にエスペランサが唇を重ねると、不思議な熱があっという間に顔から全身に広がった。

 無意識に目を開けば、いつも以上に頭が冴えわたると同時に、身体の奥底から噴火寸前のマグマのような力の流れを感じる。

 目を瞑る前と見ている景色はほとんど変わりはないはずなのに、リクレールには今見えている世界がまるで異世界のように思えた。


「敵が近い…………全員、僕に続け!!」


 その言葉と同時に、リクレールは大地を力強く蹴って駆けだした。


「ま、待って! リクっ!」

「お……おい! いきなり突っ走るな!」

「リクレール様に遅れるな! 者ども、続け!」


 まるで別人のように活き活きと先陣を切ったリクレールに、仲間たちも困惑しながらすぐに後を追った。

 その一方で、村を襲撃しようとしていた魔族軍は、突然現れた大勢の人間たちを見て大いに驚いた。


「な、なんだあいつらは!? ニンゲンどもの群れか!?」

「いったいどこから湧いてきやがった!?」

「知るかよ! とにかく、奴らを殺せ!」


 隊列を全く整えていなかった魔族の軍勢に真横から襲い掛かる形となったアルトイリス軍。

 リクレールはエスペランサを強く握りしめると、こん棒を構えようとしていたオーガの戦士を打ち合う前に真正面から切り裂いた。

 生まれて初めての実戦は一瞬で始まり、一瞬で終わった。

 敵の左肩めがけて容赦なく振り下ろされた魔剣の刃は、赤黒い皮膚を食い破り、肉を引き裂き、骨を粉砕し、内臓を圧潰し、勢いが全く衰えぬまま右わき腹から抜けていった。


「グ、ギィイィヤァァァッ!!??」

「……っ!」


 一拍遅れて響く地獄のような断末魔と盛大に降りかかる血飛沫が、リクレールの精神を激しく揺さぶり、彼は一瞬意識が遠のくのを感じた。

 が、そのコンマ数秒後には手に持った大剣から柔らかいなにかを貫く感触が伝わり、現実逃避しようとした脳を無理やり覚醒させた。

 魔剣エスペランサは早々に2体目の魔族の心臓を貫くと、筋肉が収縮する前に強引に引き抜き、続けざまに3人目の敵の首元を横一文字に切り裂き、オーガ族特有の太くて短い首をあっさりと落としたのだった。


『主様! 御覧になりましたかっ! これが、これこそが、わたくし魔剣エスペランサの力でございますわ!』

(あ、あっという間でよくわからなかった……でもこいつらを僕が!?)

『そうですわ、これもすべてわたくしの力によるものでございます! 人の身では得ることの叶わない圧倒的かつ華麗な剣の舞、どうぞ存分にご堪能くださいませ』

(ちょっ、まっ!?)


 剣としての本領を発揮できたのがよほどうれしいのか、エスペランサは無邪気に喜んでいたが、リクレールは自分の意志に反して体が動くせいで思考が追い付いていない。

 僅か10秒もしないうちに3体ものオーガ戦士を葬ったリクレールの姿に、敵も味方も一瞬唖然としたが、アルトイリス軍はすぐに士気が一気に盛り上がった。


「すごいわ! リクレール様にあんな力があったなんて!」

「リクレール様がいれば魔族軍なんて怖くねぇっ! 俺たちも続くぞ!」

「おぉぉおぉっ!!!」


 先ほどまではおっかなびっくりだった兵士たちは、リクレールが先陣を切ったことに触発され、我先にと魔族軍に突撃した。

 方や魔族軍は、不意を突かれた上に真っ先に突っ込んできた銀髪の少年の魔神のごとき強さを見て、あっという間に戦意を喪失した。


「なんだこいつら!? 強すぎる!」

「畜生っ! 人間の軍はあの城に籠ってるだけじゃなかったのか!?」

「逃げろ、皆殺しにされちまう!」


 不利を悟った魔族軍の何人かは、せめて本隊と合流しようと逃げ出そうとしたが、そこにダメ押しとばかりにヴィクトワーレ率いる重騎兵部隊が襲い掛かった。


「一匹たりとも逃がしてはだめよ! ここで逃がしたらまたいつか性懲りもなく侵略してくるわ!」

「よっしゃあ、私に任せてください!」

「逃しません」


 血気盛んなマティルダが真っ先に飛び出すと、馬上から長柄剣を振るって逃げ惑う魔族軍を散々にぶった切った。

 そしてベルサは正確無比な投げ槍で、味方とはぐれた敵を一匹ずつ確実に仕留めていった。

 こうして、リクレールにとって初めての戦闘は5分もしないうちに方が付き、200人近くいた魔族兵は一人残らず討ち取られた。

 特にリクレールは初めての戦闘にもかかわらず、たった一人で30人近くの魔族兵を葬るという驚異の活躍を見せたことで、兵士達が主君を見る目も俄然変わっていったのだった。

キャラクターノート:No.013


【名前】ベルサ

【性別】女性

【年齢】17

【肩書】コンクレイユ家騎士団新人騎士

【クラス】キュイラシェ

【好きなもの】瞑想 緑色

【苦手なもの】横入り

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