第229話 面倒な奴が来た
「なんというザマだっ!!」
「ひっ!?」
出撃していった傭兵の大半が罠にかかり、貴重な騎兵の半数が討ち取られ、残りも戦闘不能になったという報告を聞いたロパルツは、思わず怒声を張り上げて机を思い切り叩いた。
そのあまりの大声と、恐ろしい形相に、補佐官を務める騎士は思わずその場に尻もちをついてしまう。
「役立たずのゴミ共め……揃いも揃って罠にかかりおって、恥ずかしくないのか! これだから傭兵は信用ならんのだ!」
「わぁっ!?」
ロパルツは怒りに任せて机を蹴り飛ばし、腰を抜かしていた補佐官に八つ当たりするようにぶつけたことで、彼は這う這うの体で幕舎から逃げ出してしまった。
しかし、そんな補佐官には目も向けず、ロパルツはこの怒りをどう鎮めてやろうかと思案するが……逆襲しようにも、先程の戦いから戻ってきた仲間たちの姿を見て、傭兵たちはすっかり意気消沈してしまっていた。
なにしろ、正規兵ですら体中汚物まみれになりながら、落馬による骨折で呻き苦しんで戻ってきたうえ、ほかの傭兵たちも同じく汚物まみれで大恥をかいただけでなく、足元に重度の火傷を負って立ち上がれないものが数えきれないほどいた。
そんな無様な負け姿を見たことで、何より命あっての物種と考える傭兵たちは、自分たちも同じ目に遭いたくないと思ってしまうのも無理はないだろう。
その後も幕舎内で、一人、無様な味方を盛大に罵りまくったことで、少しは頭が冷えてきたロパルツは、ほかの補佐官に命じて今後は迂闊に攻撃に出ず、敵が攻めてくるまで守りを固めるよう命じたのだった。
「忌々しい奴らだが、そのうち調子に乗ってこちらに挑んでくるはずだ。その時に派手に出迎えてやれば十分だろう。それとお前たち、今回の件は……くれぐれも侯爵には言うなよ? もし漏らした奴がいたら、頭蓋骨ごと砕いてやるからな」
「「「は、はいっ」」」
そう言ってロパルツは騎士や側近たちに緘口令を敷くと、以後、援軍が目の前に陣地を建設しても出撃の禁止を徹底させた。
ゼークトたちは彼らのほぼ目の前で陣地を建設しても、一向に攻撃されることがなかったため、悪戯三人娘や元山賊たちを使って敵を口汚く罵って挑発したが、ブレヴァン侯爵軍は敵の罠を警戒して一切攻撃に出ることはなかった。
そのような状態がしばらく続いた後、半分やる気が失せていたロパルツのところに、突然の来訪者が現れた。
「ロパルツ、ここにいるザマスね!」
「げっ、その声はヨランド!?」
幕舎の外から聞こえてきた声に、ロパルツは露骨に「面倒な奴が来た」という表情を見せる。
やってきたのは、北陣地の軍団の指揮をとっているはずの女伯爵ヨランドだ。
顔全体にまるでパイ生地を塗りたくったかのような真っ白の厚化粧に、戦場にあるまじき豪奢な毛皮の服と、あちこちに身に着けている派手な装飾品の数々から、宝石箱が服を着て歩いているとも揶揄される非常に強欲な中年女性である。
一応、こんなのでもブレヴァン侯爵臣下の中でも非常に有力な貴族であり、かつては士官学校に通っていたことで、軍を動かす能力もそれなりにはあるのだが……彼女は略奪や戦利品漁りを何よりも好み、今回のユルトラガルド侯爵領侵攻作戦でも、部下の兵や傭兵たちをすぐにあちらこちらの町や村に放って、破壊と略奪に勤しんでいたのだった。
そんな彼女がいったい何しに来たのか、ロパルツは正直心当たりがなかった。




