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聖剣を継げなかった少年は、魔剣と契りて暴君を志  作者: 南木
第11章 鴉は舞い、狼は奔る
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第228話 田園地帯の罠 5

『わあああぁぁぁぁぁ!!??』


 フュジィリエが仕掛けた『錬金着火剤』は、炭や硫黄、リンなどの可燃性物質を秘密のレシピで練り込んだ手のひらサイズの黒い団子状の物体で、予め着火しておくと高熱を発したまま燻り続けるという性質がある。そして、これを密閉した可燃性の物に埋めて置くと、開封して空気が流れ込んだ瞬間に一気に酸素を取り込んで爆発的に燃え上がるのである。

 これに加え、今回建設した陣地の地面にはあらかじめ「ピッチ油」と呼ばれる沼地で採れる原油のような液体を撒いておき、藁草などでカムフラージュしていた。

 このピッチ油も悪臭がキツイ液体だが、周囲の落とし穴の中の汚物の匂いが、これまたうまい事臭いを上書きしたせいで、兵士たちは足元に油がまかれていることに気が付かなかったのである。


「わぁっ!? わぁぁぁっ!?」

「ギャアァァァ、もえるっ、もえるぅっ!!??」

「あっ、アヂィイイイィィ!?」


 哀れ陣地で戦利品を物色しようとした兵士たちは、火炎地獄となった陣地の中で足元から焼かれ、大パニックを起こして辺りを転げまわった。

 不幸中の幸いと言おうか、ピッチ油はそこまで揮発性はないので、余程あちらこちら転げまわらない限り全身が火だるまになるということはなかったが、それでも両足が炎に包まれて大やけどを負ったことで、一気に数百名以上が立ち上がれなくなりその場に倒れ込んでしまった。


「アッヒャッヒャッヒャッヒャwww! バカどもの悲鳴は実に心地いいわ!」

「イヒヒ、重度の火傷は高位の回復術じゃないと治せないからねぇ……暫くは脚だけ焼かれた兵士を抱えて、さぞかし負担だろうさね」

「セィアもそう思います」

「お前ら……敵とはいえ、よく人の悲鳴を聞いて笑ってられるなぁ……」


 背後から聞こえてくる大勢の人間の地獄のような悲鳴にげんなりするゼークトだったが、問題児三人娘らは相変わらず大爆笑している。

 つくづく人の心がない女子たちである。


 だが、そんな彼らの後ろから、落とし穴に落ちなかった敵の騎兵たちが、仲間の恨みを晴らすとばかりに物凄い形相で駆けつけてきていた。

 数はおよそ100騎程度、ゼークトたちの兵数は倍以上あると言えど、軽装の歩兵だけで騎兵の全力の突撃を受けるのはやや厳しいものがある。

 だが、今度はゼークトが騎兵への対策をすでに考案済みだった。


「よし、このあたりでいいだろう。ドルド、合図がしたら一斉にロープを引け」

「了解っ!」


 現在ゼークトたちがいるマコンクールの田園地帯は、畑だけでなく、ところどころに背が高い草が生い茂る草原地帯のような場所があった。

 人の背丈よりかは低いが、それでも足元くらいはほぼ見えなくなるため、屈めばぴったり身を隠すことができる。

 士官学校生たちが草むらに逃げ込んで少しした後、騎兵たちも彼らにとうとう追いついたことで、これまた何の疑いもなく一直線に草原地帯に突入していった。

 そして、もう少しで彼らの背中を馬上槍で一突きできる…………そう思った瞬間、馬の脚が草の中で何かに引っかかり、騎兵たちは次々とその場に転倒し、落馬してしまう。


「ぐわぁっ!? こ、今度は何だ、また落とし穴か!?」

「イテテ……なんだこれは、ロープが張ってあるぞ!」

「た、助けてくれ……あしがっ!」


 ゼークトが用意させたトラップもまた非常に簡素なもので、足元が見にくい草原地帯に突っ込んできた騎兵たちの行く手でロープを持った者たちが構え、通過する直前に張り詰めることで、馬の脚をロープに引っ掛けるというものであった。

 しかも、一本だけでなく念には念を入れて5本のロープが少しずつ距離を開けて張り巡らされたことで、騎兵たちはよけることもできず、なすすべなく全員が落馬した。

 そして……落馬した騎兵たちを待っている運命は、いつだって決まっている。


「今だ! 馬から落ちた連中を全員叩きのめしてやれ!」

『応っ!』


 ドルドをはじめとする元山賊部隊らは、落馬して戦闘力を失った騎兵たちをあっという間に包囲し、一方的に仕留めていった。

 そして、追ってくる兵士がもういないことを確認すると、彼らは意気揚々とバニュ丘陵にある陣地に引き上げるのだった。

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