第227話 田園地帯の罠 4
「あっはっはっはっはwwwみなよゼークト! あいつらあんな初歩的な罠に引っかかってやんの!」
「フヒヒヒ、傭兵ならともかくとして、正規兵まで引っかかるなんて、訓練が足りてないんじゃなぁい?」
「セィアもそう思います」
「ははは……まさかお前らの悪戯心がこんな形で役に立つとはなぁ」
橙鷹学級の名物問題児三人組と言われる女子生徒……レティーナ、フュジィリエ、セィアは、落とし穴にかかったブレヴァン侯爵兵を後ろ目に見て大爆笑しながらひた走り、その様子を間近で見ていたゼークトは複雑な心境で苦笑いしていた。
というのも、この悪戯大好き三人娘は、士官学校にいる間もしょうもない罠を仕掛けてはほかの生徒や教師たちに被害をもたらし、ゼークトも過去に初歩的なトラップで頭からバケツの水を浴びるといった屈辱を受けることもあった。
だが、その悪戯の才能……特に落とし穴を作ることに関しては、彼女たちの右に出る者はいなかった。
陣地を作っては壊され、作っては壊されを繰り返しているうちに、彼女たちはひっそりと畑の堆肥集積所から汚物を集めて、畑の土を薄く敷いた布にかぶせてカモフラージュした。
そうして、最終的な位置まで陣地を後退させたら、油断している敵を落とし穴に落とすという寸法だ。
頭の悪い傭兵たちがかかればそれでいいと考えていたが、運よく正規軍が釣れた上に、落とし穴に非常に弱く損害も大きい騎兵が引っ掛かったのは、文字通り「ウンがついてる」と言える。
世の中どんな才能がいつ役に立つのか、分からないものである。
「で、もう一つの罠の方は忘れていないよな?」
「ヒヒヒ、もちろんだともゼークト君。あの強欲な傭兵たちに、ちょーっとアッチッチな目に遭わせてやるとも。あたい特製の『錬金着火剤』の威力は保証するわ」
そう言って気味の悪い笑みを浮かべるのは、問題児三人娘の中で特に小柄な女子生徒フュジィリエだ。
伯爵家出身にもかかわらず、まるで悪い魔法使いのような恰好をする彼女は、帝国内で最近何かと不遇な「錬金術士」であり、薬品を悪用する知識だけは人一倍持っていた。
そんなフュジィリエは、今回放棄した陣地に非常に悪辣な罠を仕掛けてきたのだった。
そんなこともつゆ知らず、落とし穴をかいくぐったブレヴァン侯爵兵たちは、この期に及んでもいつも通り戦利品を漁るべく、あちらこちらに散乱している物資に殺到した。
傭兵ならともかくとして、正規兵まで今この状況で伏兵を気にすることなく、目の前の物資に目がくらむのは愚かとしか言いようがないが、ここ数日間仲間たちがタダで戦利品をゲットしているのを見て、彼らは羨ましくて仕方がなかったのだろう。
「あいつらは落とし穴だけ掘って逃げ出したみたいだぜ、見ろよ今回もたんまりと物資を残していったぞ!」
「ウンコ穴に落ちた奴らは無視しろ、早い者勝ちだ!」
「けど、なんか変な匂いしないか?」
「知るかよ、クソの匂いだろ」
一部の兵士たちは何となく変なにおいがするような気がしたが、周囲から漂う汚物の落とし穴からの臭気なのだろうと思い込んだ。
そして、何の疑いもなく、小麦粉が詰まっていると思われる袋を次々に運び出そうとした次の瞬間――――袋の山の下からボワッと大きな火柱が立ち昇り、それが袋のみならず、なんと地面にまで引火して、一気に陣地全体が大炎上したのだった。




