第226話 田園地帯の罠 3
前回の襲撃からまた3日経ち、この日もゼークトたちは田園地帯の畑に囲まれた平地に陣地を築こうとしていた。
それに対しロパルツももはや驚くこともなく、適当に傭兵たちを向かわせて追い払わせ、好きなだけ物資を持ち帰らせようとした。
ところが、最後の決戦まで力を温存させるために待機させていた正規兵たちが、今まで傭兵たちばかりが美味しい思いをしていたことに我慢がならず、ロパルツに出撃許可を求めてきた。
「ロパルツ様! この期に及んで傭兵だけに手柄を立てさせるのはブレヴァン侯爵家の騎士の名折れ!」
「我々であれば、戦利品を持ち帰るだけでなく、逃げる敵兵に追いつき、その背中を切り捨てて見せましょう!」
「どうか私たちに出撃許可を!」
「そうだな……お前たちを遊ばせておくのも勿体ない、出撃の許可を出そう。その代わり、あまり深追いしすぎるなよ?」
『はいっ!』
こうして、今まで見ているだけで力を持て余していた正規兵たちは、ほかの傭兵たちと共に直ちに出撃を開始した。
今まで歩兵だけだったのと打って変わって、今回は300人もの騎兵が勢いよく陣地から飛び出し、徒歩で逃げようとするゼークトたちを背後から切り捨ててやろうといきり立っていた。
だが、その動きはやはりアルトイリス軍からは丸見えで、敵騎兵が味方と連携をとることもせず一直線にこちらに向かってくるのを見て、ゼークトはにやりと笑った。
「こいつは僥倖だ、まさか正規軍が罠にかかるなんてな!」
「たぶん奴らも、傭兵ばかりが美味しい思いをするのが我慢ならなかったんでしょうな」
「よし、例の罠の用意はできているな」
「勿論です隊長」
「それじゃあ、皆合図通りに頼むぞ」
『応っ!』
ゼークトたちは事前に示し合わせていた通り、またしても敵に背中を見せて逃げ始める。
「奴ら、また逃げ出したぞ!」
「ここで皆殺しにしてやれ、その後物資も俺たちで独占だ!」
「騎兵の恐ろしさ、存分に味合わせてやるぜ!」
彼らが逃げるのを見た敵の騎兵たちは勝利を確信し、何も疑うこともせずに陣地に向けて一直線に突っ込んでくる――――その次の瞬間、彼らの足元が突如として崩壊した。
『う、うわああぁぁぁぁ!!??』
人と馬のものすごい悲鳴と共に、彼らは地面に大きく開いた落とし穴に落ちていった。
しかも、それはただの落とし穴ではなく…………穴の底には酷い悪臭を放つ茶色く濁った泥のような液体が充満していた。
「うぎゃあああ!? くせぇえええ!?」
「な、なんだこれ……鼻がもげるぅううう!」
「畜生っ! 糞だっ、落とし穴に糞がっっ!!?」
そう、この泥のような液体はただの泥ではなく、糞尿が混ぜ合わされた「汚物」なのだ。
罠を全く警戒していなかった騎兵300人のうち半分ほどは、馬ごと落とし穴に落ちた末に汚物にまみれて骨折し、痛みと激臭でのたうち回ることになる。
「騎兵のバカどもが、奴らの罠に引っかかったぞ!」
「どうする、助けてやらないのか?」
「知るかよあんな奴ら、俺たちまで臭くなっちまう。それより戦利品だ」
後続の歩兵たちはその光景を見ても、落とし穴に落ちて汚物にまみれている騎兵を助けようともせず、いつも通り陣地に取り残された戦利品を漁るべく、建築中の陣地に殺到しようとしたが…………
「うわーっ!? こ、こっちにも落とし穴が!?」
「あの卑怯者どもめ! 横にも落とし穴を掘っていやがった!」
「く……クサッ! な、なぜ俺がこんな目に……!?」
騎兵たちが嵌った陣地の正面だけでなく、それを避けた陣地の側面にも汚物に満ちた落とし穴用意されており、これ以上の罠がないと思い込んでいた傭兵たちまで汚物まみれになってしまった。
こうして、欲に目がくらんだブレヴァン侯爵兵たちは、罠に引っかかりクソミソな結末を迎えてしまうのだった。




