第220話 ブレヴァン侯爵軍の弱点
「偵察によれば、ブレヴァン侯爵軍は今まさに包囲陣地を築いている最中らしい。だが、俺たちが戦場につく頃には包囲は完成しているだろうし、なんなら即座に攻撃を仕掛けるかもしれない。けど、焦る必要はない。ユルトラガルド家が誇るリヴォリ城は幅広の濠と高い城壁に囲われた堅城だ、そう簡単に陥落するもんじゃないし、ブレヴァン侯爵もそこんとこはよくわかってるだろう。だから奴らは、時間をかけてじわじわと濠や城壁を崩して、城を疲弊させる作戦をとるはずだ」
シャルンホルストは口頭で説明しながら、チェスの駒を地図上に並べて、城がある位置をずらりと包囲しているように見せる。
大軍を利用した二重の陣地に囲まれたリヴォリ城はネズミ一匹這い出る隙間すらなく、外との連絡が完全に遮断されてしまっており、この状況で数か月も攻撃が続けば城兵は疲弊していずれ戦えなくなってしまうことだろう。
改めて見るとなかなか絶望的な状況と言えたが……付け入るスキがないわけではない。
「しかし、俺たちからしてみればむしろこの状態はある程度有利と言える」
「ある程度有利? 一体どういうことだ?」
そう言って紫鴉学級一の武闘派であるゼークトが首を傾げた。
「単純に考えれば、相手は東西南北すべてに兵を配置しなきゃならないわけだから、例えば俺たちが一方向から攻撃をしたとしても、残りの三方向の兵は戦闘に参加できないわけだ」
「なるほど、言われて見りゃその通りだな! ってことは、最悪1万ちょい位を相手にすればいいってことか」
「それでも十分多すぎると思うけどなぁ」
「そう、多すぎるんだ」
「うん?」
生徒の一人が何気なくつぶやいた言葉に、シャルンホルストが即座に反応した。
「奴らは明らかに兵が多すぎる、それこそがブレヴァン侯爵軍の弱点だ」
「兵が多すぎることが弱点? そんなことあるのか?」
「もちろんだ、俺たち士官学校ではよく訓練を積んでよく命令に従う兵士が大勢いるし、それを率いる部隊長や武将が多いのが大前提だが…………ブレヴァン侯爵軍の大半は平民の徴募兵と傭兵で構成されていて、侯爵軍の中核となる騎士団や正規兵は多くても5000人くらいしかいないはずだ。まあ要するに、今の奴らの軍隊はほとんど魔族軍を相手しているのと変わらないと言った方がわかりやすいか」
「シャルンホルストの言うことはもっともだな。ブレヴァン侯爵は、おそらくユルトラガルド家やアルトイリス家なんかが兵力を増強しないよう、西帝国中の傭兵の大半をかき集めたのだろう。その結果が5万という膨大な兵数だが、この軍量は明らかに一侯爵が指揮できる範疇を大幅に超えている。そもそも、それだけの兵を統率するための将が用意できないからな。そうなると、侯爵に出来ることは雑兵どもに単純な命令を下すことだけ。我らの動きに合わせた臨機応変な対応など望めないだろう」
「流石はモンセーだ、俺が言いたいことを全部言われたな」
車椅子の女子生徒モンセーは、やはり紫鴉学級でリクレールと1、2を争う学識の持ち主ゆえに、シャルンホルストが言わんとしていることを速攻で理解した。
確かに野戦では結局兵士の数が物を言うが、多ければ多いほど細かい指示を出すことができない。ましては訓練が行き届いていない徴募兵や傭兵では動きが雑になることは避けられず、相手に合わせた臨機応変な対応などできるはずがない。
これこそがシャルンホルストのねらい目だ。




