第218話 蝿のように舞い、蜂のように刺す
設営や物資の荷下ろしがあらかた終わった次の日、シャルンホルストは改めて学生全員を一堂に集め、これからの計画について説明しはじめた。
「みんな、よく聞いてくれ。まずはこれだけ覚えておいてほしい、今回の戦いで「勝つこと」は考えなくていい。最も重要なことは「負けないこと」だ!」
シャルンホルストの言葉に、大半の生徒たちは首を傾げたり、意味が分からないと言った風な表情を見せたが、紫鴉学級の面々は流石に彼と付き合いが長いからか、ほとんどが彼の言わんとしていることを理解した。
「ククク、つまり我々がそこに在ることで、敵の狙いをリヴォリ城に絞らせないようにするという魂胆なのだろう。皆も想像してみるとよい、目の前の大事に集中している最中に、周囲に小蝿が何匹も飛び交ったら精神の均衡を保てまい」
「要するにあたしたちはハエってわけね!」
フリルをふんだんにあしらった改造制服を着こなす女子生徒サンシールは、相変わらず大仰な言葉で話をするが、ムードメーカー女子スーシェの身も蓋もない一言で、その場にいた学生たちはどっと笑った。
唯一、作戦の提唱者であるシャルンホルストだけは苦笑いしていたが……
「そこはせめて蜂とかにしてくれよ…………まあいい、サンシールの言う通り、俺たちの目的はあくまで妨害と、リクが編成する援軍が来るまで時間稼ぎをすることだ。何しろこっちの数は3000人程度に対して向こうは5万人だからな、仲間が一人減るだけでも一気に厳しくなるのは容易に想像ができる。だから俺たちは、奴らと真正面から戦わず、嫌がらせに注力する。そして、そのためには全員何が何でも生き残ることを心掛けろ、上手くいかないと思ったらその時点で逃げろ、騎士らしく華々しい戦いをしようなんぞ思うなよ」
殆どの者が騎士として身を立てるべく入学した士官学校の学生たちに「騎士らしい戦いをするな」という言葉は屈辱に等しいだろう。
だがそれでも、彼らは強大な敵を前に自分たちがいかに劣勢な状況に立たされているかを知っているので、シャルンホルストの言葉に同意するほかなかった。
「だが安心しろ、最終的に勝てばいい。最後の最後で、あいつらに手痛い一撃を与えて、二度と立ち上がれなくする。そして、俺とリクの頭には、ある程度そこまでの道のりができている。ゆえに……あえて言わせてもらう、紫鴉学級も、青狼学級も、そして橙鷹学級も…………みんな俺についてこい! お前たちに特等席で、最高の奇術を見せてやる!」
『おおっ!』
勢いに飲まれた感はあるが、とりあえず学生たちはシャルンホルストに従って行けば間違いないのではと思い直し始めた。
シャルンホルストの目論見通り、まずは全員の認識を一つにすることができたようだ。
そして、シャルンホルストの少し後ろでは紫鴉学級担任のウルスラと、青狼学級の担任ローレルが、まず最初の掴みは大丈夫だろうと心の中で合格点を与えたのだった。




