第215話 出鼻をくじかれましたぞ!?
リクレールやヴィクトワーレが、レイの給仕を受けながらしばらくお茶を嗜んでいると、またしても執務室の扉からノックの音が響いた。
「リクレール様、あなた様のガムランが戻りましたぞ!」
「おかえりガムラン、入っていいよ!」
「では失礼いたします!」
次に入室してきたのは、太っちょ貴族…………いや、今は「ちょっと太っちょ」くらいのガムランだった。
東帝国で買い付けしていた時に暴飲暴食して、一時は体重がリバウンドしていたのだが、アルトイリス領に帰って来るや否や、早速大量の仕事を押し付けられる羽目になった。
特にガムランは物資の計算が早いことを見込まれて、あちらこちらにいる軍隊に滞りなく物資を送るよう命令されていたので、彼は必死になって運んできた物資の分配と運搬の手はずを整え、さらに輸送する人員を用意しなければならなかった。
その上で最近は実家の救援に向かったシャルンホルストの軍に、追加で物資が必要になると言われたので、彼自身が輸送部隊を率いて届ける羽目になったのである。
おかげで近頃のガムランは、またしても日に日にスリムになりつつあり、このまま酷使していけば戦争が終わる頃にはモデル体型になっていることだろうと思われる。
そんな彼は、部屋に入るなり即座にお茶以外にもいい匂いが漂っていることに気が付く。
「む、くんくん……この香り、チーズにバター、煮詰めたはちみつにマーマレードのジャム、ですな。リクレール様はチーズケーキなどお召し上がりになられたのでは?」
「えっ、よくわかるね、なんで!?」
「伊達に食通をやってはおりませぬからな! 舌で味わえるのであれば、産地すら当てて見せましょうぞ! ですから、是某にも……」
「申し訳ございません、材料が限られておりましたゆえ、ご主人様とヴィクトワーレ様、そして味見して下さったサミュエル様の分しか用意できず」
「そ、そんな!? 出鼻をくじかれましたぞ!?」
分かりやすくがっくりと肩を落とすガムランに、リクレールは思わず笑ってしまいそうになった。
「ま、まあまあ、今度はちゃんと材料を用意してみんなで食べようか! それよりガムラン、シャルの方の戦況はどうだった?」
「おおそうですな、そのことについて早速説明いたしますぞ! それに、シャルンホルスト様や、士官学校の先生方からそれぞれ文章を預かっております」
そう言ってガムランは背負ってきた背嚢を下ろすと、そこから大量の紙束を取り出した。
これらはすべて、ユルトラガルド侯爵領の救援に向かった主要メンバーから、リクレールに宛てた報告や近況の知らせについてであり、それらを受け取ったリクレールはヴィクトワーレ(とエスペランサ)らとともに一つずつ目を通していった。
「よかった、みんなすごく順調みたいだね! 5万人の敵兵に対して、3000人しか用意できなかったけど、シャルは地元の地の利を生かして敵を翻弄している」
「全くでございます。あのような戦い方もあるのかと、某も感心してしまいましたな。これは某が実際に聞いた話なのですが――――」
こうしてルクレールたちは、シャルンホルストたちから受け取った書簡を読みながら、ガムランの話を聞いて、向こうがどのような戦況になっているのかを分析し始めたのだった。




