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第213話 嬉しい知らせ

 さて、ベルリオーズたちがレオニスとの合流を急いでいる間にも、皇太子レオニスが生存していたという知らせは、コンクレイユ軍内でとどまることなく南下を続けた。

 シェムスタ侯爵領に行き渡ったのちコンクレイユ侯爵領に到達、そこからさらにミッドルタ大河を挟んだアルトイリス侯爵領にまで知らせが届くことになる。


「そうか……皇太子殿下が生きていたんだ。本当によかった……」

「ビュラン兄さんも生きていたし、私たちには嬉しい知らせばかりだわ」


 アルトイリス城にいるリクレールやヴィクトワーレの元には、つい先日コンクレイユ侯爵軍がロディ峠で一方的な大戦果を挙げたという知らせがもたらされたばかりで、その知らせを聞いたアルトイリス領内は初戦の勝利で大いに盛り上がったが、その上さらに正統な後継者のレオニスが生きていたとわかれば、士気はさらにうなぎのぼりだ。

 アルトイリス領でもコンクレイユ領でも、町に住む人々は次期皇帝を名乗ったマルセランに対して反攻することを不安に思っていたし、貴族たちの中にも自分たちの利益に固執する者たちは、旗色が悪くなり次第侯爵家を裏切るかどうか虎視眈々としていたが………帝国本隊があっさり負けたという報告を受けて、彼らはすぐに手のひらを返してリクレールたちに進んで協力を申し出るのだから、面の皮が厚いというほかなかった

 そして、ここでレオニスが生きているというニュースが領内全土に伝われば、今まで以上に自分たちの正統性をアピールできるようになるだろう。


 逆に、敵側にこの情報が広まれば、一転して自分たちが反乱軍側になるという事実は確実に士気を下げるだろうし、中にはマルセラン側から寝返る貴族も出てくるかもしれない。


『運が着実にこちらに向いてきておりますわ主様メーテル、ヴィクトワーレ様。今なら、例えシャルンホルスト様の作戦が失敗したとしても、最悪でも致命的な敗北は免れました』

「う、うーん……あんまりそんな想定はしたくないけど、シャルは今一番危ない役目を担っているから、備えておくに越したことはないだろうね」

「リクは今兵士たちの訓練や貴族たちとの折衝で忙しいから、出来れば私が代わりに援軍に行ってあげたいくらいなのだけど……やっぱりダメかしら?」

「トワ姉……僕としてもトワ姉がシャルの部隊に合流すれば、安心できるかもしれないけど、トワ姉にはどうしてもやってもらいたいことがあるから」

「そうね…………正直、私も聞いた時にはびっくりしたわよ。シャルンホルスト君も、よくこんな作戦を受け入れてくれたわね」

『……本来であれば、ヴィクトワーレ様にも内密にしておきたかったのですが、主様メーテルたっての願いでしたので、お伝えさせていただきましたわ。言っておきますが、この作戦内容が少しでも外部に漏れたら最後、我々の勝ち目はなくなりますゆえ、よくよくお覚悟していただきたく存じますわ』

「うぅ、分かっているわ。リクが信頼してくれたのは嬉しいけど、エスペランサはまだ私を信用していないのね」


 そう言ってヴィクトワーレはため息をついた。

 リクレールが決めた秘密の作戦については、シャルンホルストには事前に知らせていたが、ヴィクトワーレがこの作戦に加わることが決まった以上、リクレールが信頼する一人として彼女にも作戦の詳細を話すことにした。

 シャルンホルストの時もそうだったが、エスペランサとしてはなんとしても外部に情報が洩れてほしくないので、出来ればヴィクトワーレにも内緒にしておきたかったのだが、リクレールがそれを許さなかったのだった。


「まあいいわ、今は私も新兵の訓練にまい進する。そして、シャルンホルスト君が本当に危なくなったのなら、私たちの騎士団が助けに向かう、ということでいいかしら」

「うん、お願いするよ。仲間たちが戦っている間、僕たちが後方で戦わないのは気が引けるけど、これも勝つためだから」

「勿論よ、私もリクに最後まで協力する、約束するわ。だから――――」


 執務椅子に座るリクレールに何気ない動きでしなだれかかったヴィクトワーレは、柔らかい両手の指先でリクレールの頬を軽く押さえて自分の方を向かせた。


「リクも約束して……私のことをずっと信じてくれるって」

「トワ姉……」

『え、なんですのこの雰囲気』


 エスペランサの目の前で、ヴィクトワーレがリクレールにゆっくりと顔を近づけて……唇を重ねようとしたその時、執務室の扉が控えめにノックされた。

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