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第212話 白旗

「俺は……もっと早く言うべきだった! そうすれば、先生や仲間たちは……っ!!」

「ジメント……そんなことがあったのか」

「どこまでも汚い連中だ!! あんな卑怯な手を使っても、紫鴉学級の奴に決闘で負けただけはあるな! 性根が腐ってやがる!」

「その話が本当かどうかは分からないけど、少なくとも白竜学級の連中が俺たちを捨て駒にしようとしたのは確かだよね。それがわかったからには、俺も降伏に賛成だ。あんな奴らのために、命を捨てられるか!」


 こうして、殿として残った学生たちはジメントの話を聞いて一気に白竜学級憎しの気持ちが募り、あっという間に全会一致で降伏を決めた。

 皮肉にもアヴァリスの失言で、彼らはマルセラン側を裏切る方向で一致団結してしまったのである。

 そうと決まれば、いつコンクレイユ軍が攻撃してくるかわからない現状では一刻も早く降伏宣言を知らせる必要があるということで、直ちに騎士の一人に白旗を持たせて山の上の陣地に向かわせたのだった。


「閣下、敵陣から白旗を掲げた使者がこちらに向かってきております」

「降伏の使者か……決死隊が陣地に残っていたものとばかり思っていたが、彼らは切り捨てられただけなのかもしれんな。ワシ自ら使者に確認してみるとしよう」


 ベルリオーズも使者を追い返すことなく受け入れ、彼の口から陣地に残ったのは白竜学級以外の士官学校生徒と付き添いの騎士のみであることと、マルセランをはじめとした西帝国本隊にはこれ以上ついていけないので降伏する旨の説明を受けた。

 ベルリオーズは、少なくとも目の前の使者は嘘を言っていないことを確認すると、コンクレイユ侯爵として降伏を受け入れることをその場で決めたのだった。


「麓の陣地を一戦も交えずに手に入れられる意義は非常に大きい。どのみち我らには帝都タイラスルスまで追撃する余裕はないのだから、まずはレオニス様との合流を優先する。そのためにまず、降伏を申し出た者たちと直々に話をしに行くとしよう」

「閣下自らがですか? やや危険すぎやしませんか」

「相手は我らが散々に打ち破った部隊だ、向こうの恨みを少なからず買っていることはもとより承知だ。それでも……その恨みを呑み込んで降伏を申し出たというなら、彼らの心意気に応えてやらねばなるまい」


 ベルリオーズは麓に陣取っている帝国軍が本当に降伏する意思があることを自ら確認すべく、数十人の騎士と共に麓にある帝国軍の陣地に向かって行った。

 果たしてそこでは、ベルリオーズが来ることを知ったジメントをはじめとする生徒たちが、地面に自分たちの武器を逆さまに突き立てて勢ぞろいしていた。

 地面に愛用の武器を逆さまに突き刺すのは(人間の間でのみ通用する)騎士がこれ以上抵抗しないことを示すものだ。


「コンクレイユ侯爵、我々藍熊学級並びに黄獅子学級は、その義務を果たしました。どうか、侯爵閣下のお慈悲を賜りますよう、お願い申しあげます」

「そなたが代表か……マルセランめ、自らが逃げるために子供を盾にするとは、とうとう見下げ果てたものだ。そして、お前たちはその歳で、よくぞ勇気ある降伏を決意した。武器を拾いなさい、今から我々はもう敵同士ではないのだからな」

「っ!! はい……ありがとうございます!!」


 山頂付近の陣地で対峙した際は、非常に恐ろしい敵であったが……ベルリオーズが降伏した者たちに武器を持つことを許可したことで、ジメントは彼の武人としての寛大さに非常に心を打たれた。

 普通、降伏した騎士は自らの子供に等しい愛用の武器を没収され、そのまま返してもらえないことも多い。

 降伏してすぐに反乱を起こされてはかなわないので、ある意味当然の処置であるが、それをわかったうえで武器を没収しなかったのは、非常に寛大なことであった。


 こうして、殿として陣地に残っていた士官学校生徒たちは、戦わずしてコンクレイユ侯爵軍に陣地を明け渡た。

 これにより、コンクレイユ侯爵軍とレオニス率いる蜂起軍の合流は予想以上にスムーズになり、帝国本隊は益々窮地に追い込まれていくのであった。

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