第211話 あれは嘘だ
次の日、マルセランをはじめとする西帝国本隊は、殿となった藍熊学級および黄獅子学級の生徒たちを殿とし、陣地に置き去りにしてそそくさと撤退していった。
そして、残された生徒たちや、付き添いの騎士たちは、揃って悲痛な面持ちをしている。
中にはこのような戦場で命を捨てたくないと考える生徒もいたが、藍熊学級はほかの学級に比べて先生や上級生の意見が絶対的とされるという、常日頃から軍隊のような規律が維持されていることもあり、級長のジメントに逆らえるものはいなかった。
そんなジメントは、帝国軍が全員撤退していったのを確認した後、改めてその場にいる全員を陣地の真ん中に集合させた。
「集まってもらったのはほかでもない。この後俺たちがするべきことについてだが…………」
とても学生とは思えない強面の口からは、おそらく最後の一兵まで戦い抜くという、よくありがちな精神論が出る者と誰もが思っていた。
が、彼が口にした言葉は誰もが予想しないものだった。
「俺たちは、コンクレイユ侯爵軍に降伏する」
『降伏!?』
その場にいた者たちは、まさかジメントが降伏するなどとは考えていなかったので、びっくりして思わず声を上げてしまった。
「ちょっと待ってくれジメント先輩、昨日の会議で俺たちは命を捨ててでも先生の仇を討つって言ったよな? なんで急に敵に降るなんて話になるんだ?」
「すまん、あれは嘘だ」
「嘘……?」
「確かにラマズフテ先生が亡くなったのは悲しいが……それ以上に俺には許せないことがある。あの白竜学級の奴らだ」
ジメントは険しい表情のまま、彼がなぜこのような決断をするに至ったかを、どこか遠い目で語り始めた。
それは、ロディ渓谷での戦いが始まる前の晩のこと……ジメントは白竜学級たちが自分たちの功を奪う可能性を否定できないと考え、それとなく探りを入れるために彼らの幕舎を訪れようとしたのだが、そこで気になる話がテントの中から漏れてきた。
「なに、それじゃあ俺たちはほかの学級の連中が攻撃するのを黙ってみてろってか!?」
「バカ……声がデカい。いいか、ブランシャール、ヴェッキオ……これは先生からも言われていることだが、こんなしょうもない戦場で功績をあさる必要はない。俺たちは、もっと重要な場面で功を立てるべきだ」
(なんだと……!?)
天幕から漏れ聞こえてくる会話に、ジメントは耳を疑った。
確かに彼らは作戦会議中は嫌におとなしいと思っていたが……何のことはない、彼らは多数の犠牲が出る割に、そこまで大きな功績が得られるわけではない戦場を、あえてほかの学級に押し付けたのだ。
「なるほど……デュカス先生が今回の先陣を彼らに譲ったのは、僕たちだけが功績を独り占めしないためだけじゃなくて、彼らにもちゃんと活躍の場を与えさせて、平等になるように思わせるってわけか」
「まあそれもそうか。俺も正直、あんな山の上の防衛陣地まで突撃するのはしんどいからな、だったらシェムスタ侯爵領で華々しく野戦で活躍した方がいい」
「そういうわけだ。それに、あいつらが勝手に突撃して大損害を被れば、今度こそあいつらは俺たちに頭があがらないだろうからな」
そう言ってアヴァリスは、外でジメントが耳をそばだてていることも知らず、ほかのクラスメイト達とともにバカにしたような笑い声をあげた。
(あいつら……俺たちを、捨て駒にする気かっ!!)
この話を聞いたジメントは憤慨して自分の陣地に戻り、ラマズフテに報告してやろうかと思っていたが……そのラマズフテが先陣を切る気満々な以上、彼の口からは強く言えず、とりあえず勝ってからこのことを報告しようと心に決めたのだった。




