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第210話 蜥蜴の尻尾きり

 まさか自分たちが殿の役目を担わされそうになるとは思っていなかったアヴァリスが、思わず素っ頓狂な声で反応した。


「ちょっと待てよオッサン、なんで俺たちがそんな役目を担わなきゃならないんだ! 言っておくが、俺はブレヴァン侯爵家の跡取りなんだぞ、分かって言ってるのか?」

「ええ勿論ですとも。ブレヴァン侯爵には申し訳ないですが……ご子息が皇帝陛下のためにしなるのですから、むしろ光栄でしょう」

「そうだそうだ、今一番被害が少ないのは士官学校の戦力だ。ミライアル若者をこのような場所で失うのは心苦しいが、君たちならきっと何とかしてくれるはずだ」

「冗談じゃない、あんたらはそれでも帝国が誇る騎士か!?」


 どうやら西帝国の騎士たちの中にも、若いくせに偉そうにする白竜学級の生徒たちのことをよく思わないものがいるようで、この機会に彼らに被害を押し付けようという魂胆のようだ。

 対するアヴァリスたちも、死ぬことが確定している役目など当然やりたくもないので、なんとか逃れようとあれこれ言い訳を並べ始めた。

 俄かに対立を深める帝国騎士たちと白竜学級の生徒たちの間で、マルセラン派双方をどのように止めるべきかおろおろするばかり。

 だが、そこに意外なところから助け舟が出された。


「マルセラン様……その殿の役目、どうか我々にお任せください」

「おお、そなたは! 確か藍熊学級の級長であったな」

「はい……藍熊学級級長のジメントです」

 そう言って前に出たのは、まだ未成年にも関わらず非常にごつい顔が特徴的な巨漢の生徒ジメントだった。

 藍熊学級の級長である彼は、亡くなった担任のラマズフテに代わり、生き残った藍熊学級と黄獅子学級の生徒たちを率いて、命辛々地獄の戦場から逃げ延びることができた。

 彼自身も体のあちらこちらに傷を負い、万全の状態とは程遠かったが、それでも彼らが殿を買って出たのには理由があった。

「俺たちの仲間や先生は……反乱軍によって大勢殺されました。だからこそ、刺し違えてでも仲間の仇を討ってやりたいんです!」

「……わかった、そこまでの覚悟があるなら止めはせん。しかし……できることなら生きて帰れ、これは私からの最後の命令だ」

「ありがたきお言葉、痛み入ります」

 そう言ってジメントは深々と頭を下げた。

 彼らが自ら殿を申し出てくれたことで、アヴァリスたちは露骨に安心した表情を見せ、それがまた帝国の騎士たちの神経を逆なですることになる。


 ともあれ、作戦が決まった以上、危険な土地に長くとどまるわけにはいかないということで、帝国軍たちはすぐに撤収作業を行い、準備が整った軍から順次撤退していくこととなった。

 残った藍熊学級の生徒や黄獅子学級の生徒は、それぞれ生徒数が3分の1以下にまで減ってしまっており、彼らだけでは人数は50人にすら満たなかったが、殿を受ける条件として士官学校に所属する騎士を白竜学級の割り当て分も含めて全員譲ってもらったので、最終的には500人程度で敵の追撃を食い止めることになった。

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