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第209話 僭称者の責務

 さて、当のマルセランたち帝国軍本隊は、レオニス蜂起の知らせを受けてすっかり意気消沈していた。

 今この状態で正面のコンクレイユ軍の陣地を攻撃すると言い出すような頭の悪い者はいなかったが、かといってすぐに尻尾をまいて逃げるというのも、なかなか言いづらい。


「諸君、このような事態になってしまったからには、もはや撤退以外に道はあるまい。このような事態に陥ってしまったのは、すべて私の不甲斐なさによるものだ」

「陛下……それは」

「皆の気持ちは分かる。帝都からこの地にたどり着くまで、身も凍るような寒さの中を歩き続け……戦闘ではいたずらに犠牲を重ね、何の成果もないまま撤退する。皇帝としてこの上ない屈辱ではあるが、命あってこそ物種とも言う。ここは潔く撤退し、これ以上の無駄な犠牲を出さないようにすべきだ」


 皇帝がまだ生きていた頃、魔族との戦いで度々劣勢になった時、最後まで粘り続けようとする兄……オルセリオ三世を諫めて無駄な被害の拡大を防いでいたのがマルセランだった。

 今自分が当事者になって同じ状況に陥ったことで、彼はようやく兄が感じていた重圧を知るに至った。

 口だけ出していればよかった立場が、どれくらい気楽だったか…………マルセランは自らが皇帝になったことで、自分のために戦場で散っていった命の責任も負わなければならなくなったのである。


「しかし陛下、撤退するとなりますと、おそらく山頂に陣を構えるコンクレイユ軍が我々の背後を突いてくる可能性が非常に高いと考えられます」

「それはそうだろうな、向こうが我々の背後を狙わない理由はないだろう」

「ですが、彼らに対して迎撃の用意を取り続けての撤退となりますと、移動に多大な時間を要します。その間に、レオニスを擁する反乱軍に退路を断たれれば、我々は今度こそ窮地に陥ります」

「むむむ、それもそうだ。では、我らはどうすればよいというのだ?」

「……この陣地に殿の部隊を残し、殿下には最優先で撤退していただきます」

「なんだと!?」


 西帝国の将の一人から提案された作戦を聞いて、マルセランは思わず絶句した。

 殿を用意するということは、すなわち蜥蜴の尻尾きりのように軍の一部を見捨てるということだ。

 ただでさえ自分のために将兵を大勢犠牲にしたというのに、これ以上兵たちに犠牲を強いる作戦にマルセランは納得できなかった。


「待て、私はこれ以上の無駄な犠牲は許しはしないぞ」

「しかし陛下、陛下が死ねばこの軍は終わりです。そうなれば、今度こそ本当の意味で我々の努力は水の泡となります。さあ、御決断ください、今はこの手段しかございません」

「…………わかった」

 マルセランは喉の奥から絞り出すような声でそう答えた。

「では、誰が殿として残るというのだ。言い出したそなたか?」

「まさか……私よりよっぽど適任がおります。先の戦いでは、わが軍を蹂躙せしめんとした反乱軍に対し、最後の盾となり毅然と立ち向かった者たちがいるではございませんか」

「はぁっ!?」


 将軍が目を向けたのは、よりによってアヴァリスたち白竜学級の生徒たちであった。

 

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