第206話 忘れていたわけではなかったのだが
「そうか……私からも礼を言おう、助かったぞレイア」
「いえ、私は当然のことをしたまでです」
「率いてきた増援部隊はいかほどの兵力だ?」
「私が率いてきた兵は2000名程度です。本来であればもっといたのですが……事前に少数ごとに分割して輸送したのがアダとなり、私より先に出発した部隊は遊牧民たちに撃破されたようです」
「わかった……デュカスにも後で礼を言っておかねばな。しかし、だ……増援が来たとはいえ、現兵力ではやはりコンクレイユ軍の防衛陣地を撃破するのは難しいか」
レイアの部隊が到着したことで、少なくとも食糧不足は解消し、コンクレイユ軍が逆襲してきた際も万全に戦える状態にはなったが、やはりこちらから攻めるとなると兵士が少し増えたところであまり意味がなかった。
この先どうすべきか再び話し合うことになったマルセランたちだったが――――そこに、血相を変えた伝令が早馬を駆って陣地に飛び込んできた。
「ま、マルセラン殿下! 一大事でございます!!」
「またか……今度は一体なんだ」
ただでさえ詰みに近い現状で、これ以上何が起きるのかとマルセランは辟易としながら伝令から報告を受け取ったが……
「……? マルセラン様、いかがなさいましたか?」
「…………忘れていたわけではなかったのだが、まさか、このようなタイミングでとは」
報告の文章に目を通したマルセランの顔から一気に血の気が引いていき、報告書を持つ手が無意識にわなわなと震えはじめた。
「諸君、まずは落ち着いて聞いてほしい。どうやら…………レオニスが、帝国北方で蜂起したようだ」
『な、なんだってー!!??』
「報告によれば……レオニスは、北方の町や村、それに地元の豪族を取り込み、勢力を拡大しているらしい。くっ……帝都から逃げられた際に、もっと根気よく探していれば!!」
今は亡き第一王子の息子にして、本来の次期皇帝となるべき人物……レオニス皇太子が、帝国軍本隊が苦戦した隙をついて蜂起したのだった。
それはつまり、今のマルセランたち帝国軍本隊は、南にいるコンクレイユ軍だけでなく、北から迫るレオニスたちも相手にしなければならなくなったことを意味している。
そう…………彼らはまだ、窮地を脱していなかったのである。




