第204話 雪原の死闘
士官学校生徒たちが遊牧民の襲撃を必死になって耐えている光景を、少し離れた高台からじっくり眺めている3人の人物がいた。
そのうち2人は年季の入った鎧を着こんだ屈強な男性騎士で、もう1人は革の鎧と防寒用の毛皮のコートを纏う遊牧民の女性だった。
「おーおー、なかなか手ごわいな。東帝国の士官学校出身とはいえ、ほとんど子供だけなのにしっかりと円陣で守りを固めてやがる」
「士官学校が誇る最優秀生徒を集めた至高の学級……白竜学級の異名は伊達ではないらしい。俺の妹もあの学級出身だが、まさか彼らがマルセランの側につくとは」
「どうする? このままだとさすがに矢が尽きてしまうわ」
「そうさな、このあたりが潮時だろうか…………うん?」
どうやら遊牧民の集団をけしかけたのは彼らのようだが、白竜学級の奮闘によりあまりダメージを与えられていないのがわかると、そろそろ撤退すべきかと考え始めた。
ところが、2人の男性騎士のうち、炎のようなオレンジ色の髪の毛が特徴的な方が、地平線の向こう側から土煙……いや、雪煙がもうもうと舞い上がっているのを発見する。
「ビュラン、あれを見ろ。それなりの数の何かが、こっちに向ってきているぞ」
「……敵の増援か、なんとタイミングが悪い事か。仕方がない、キトレル撤退するぞ」
「承知したわ。でも、このまま逃げるのもあれだし、最後に一発カマしてあげましょ」
ビュランと呼ばれた薄い金髪の男性騎士は、遊牧民の女性キトレルに撤退することを告げた。
はたして、彼らが目にした雪煙はたちどころに大きくなっていき、ついにはこちらで全速力で向かってくる帝国の騎兵部隊が視認できた。
しかも、騎兵部隊の先頭で寒さにも負けずに全速力で突進してくるのは、帝都タイラスルスにデュカスと共に残っていた、白竜学級の副級長レイアだった。
「間に合ってよかった……! 仲間の危機よ、飛んでくる矢を恐れずに立ち向かいなさい!」
『応っ!』
「あれは……帝国の騎兵だ! 味方が来たぞ!」
「おぉ、レイアが来てくれたのか! 危ないところだった!」
多数の遊牧民の集団に囲まれて絶体絶命だった白竜学級の生徒たちは、神懸かり的なタイミングで救援に駆けつけてきたレイアたちを見て、一気に士気を盛り返した。
また、襲撃する側も、敵の増援が来たのに気が付いたのと、彼らのリーダーであるキトレルが撤退の指示を出してきたことにより、次々と攻撃を中断し撤収に移った。
「あっ、不利になったから逃げる気か、卑怯者どもめ!」
「今度は俺たちがお前らを追い回してやる!」
「待った、今はあまり深追いはしない方がいい!」
一方的に矢を浴びせられていた白竜学級の生徒たちは、敵が逃げていくのを見て、たまったフラストレーションをぶつけようと追撃する姿勢を見せたが、一部の生徒は深追いすべきではないと言って仲間たちを止めた。
追うべきか追わないべきか、意見が対立する寸前だったが…………遊牧民たちは、手に入らなければもはや用済みだとばかりに、雑に火矢を放ち、何本かが荷車に命中する。
最後の最後で物資を焼き払われてはたまらない。彼らは周囲の雪や砂で、急いで荷車に刺さった火矢の炎を消し止め、延焼を防ぐことができたが、結局遊牧民らに反撃する機会を逃してしまったのであった。




