第203話 さては仲間を呼びやがったか
長い冬の夜が明け、東のアザンクール山脈の向こうから陽が昇り始めるころ、ようやく襲撃者たちはあきらめたのか、後を追ってきた敵は踵を返して姿を見せなくなった。
白竜学級の生徒たちはようやく安心するも、敵襲を警戒しながらの行軍で疲労と眠気がたまっており、おまけにとても空腹だった。
「次の村までどのくらいだろうか」
「昨日……いや、2日まえに逗留した町が一番近場だが、着くのは昼前になるだろうな」
「仕方ない、一旦このあたりで休息だ。メシにするぞ」
「ああ、もう腹ペコだぜ」
アヴァリスの指示で、白竜学級の生徒たちは道から少し離れた場所に陣を敷き、そこで朝食をとることにした。
土を掘り返してかまどを作り、魔術道具で火を起こして暖を取りつつ、荷車の食糧を一部拝借して朝食を食べ始めたのだが――――
「敵襲だ!!」
「あのバカども、また来たのか…………いや、ちょっとまて、なんだあの数は!?」
「ウソだろ!? あの陣地にはあんなに大勢はいなかったはずだぞ!」
「さては仲間を呼びやがったか!?」
なんと、昨日散々に打ち破ったはずの襲撃者たちが、地平を埋め尽くさんばかりの大人数で逆襲を仕掛けてきたのだ。
ほぼ全員が馬に跨っており、弓や剣を携え、顔を布で目の部分以外を覆った、完全武装の北方遊牧民……数は不明だが、明らかに1000人以上はいるだろう。
対するアヴァリスたちは士官学校生徒と、彼らを補佐する騎士たちを含め200人程度であり、数の上で大幅に劣勢であった。
しかも周囲はほとんど何の遮蔽物もない雪原上の街道なので、いくら質に勝る士官学校生徒たちでも、かなり厳しい戦いになることは容易に想像がついた。
「あの遊牧民たち、まさか初めからこれを狙っていたというの!?」
「こうなったら荷車を盾にしろ! 機を見て反撃するぞ!」
彼らは補給物資を満載にした荷車を前面に出してバリケードの代わりとし、側面を重装備の生徒や騎士たちで固めた。
そうこうしているうちに、遊牧民の大軍は士官学校生徒たちを包み込むように左右から包囲し、馬を奔らせながら矢を射かけてくる。
彼らの弓は帝国の一般的な射手が用いる弓より小さく、射程も威力も劣るが、馬上での取り回しがよく、連射が可能だった。
士官学校生徒たちの前後左右からたちまち矢の驟雨が降り注ぎ、完全に防戦一方であった。
「ヴェッキオ! お前なら反撃できそうか!?」
「くっ……さすがに数が多い! 少しでも顔を覗かせたら、向こうの矢が飛んでくる……っ!」
吟遊詩人のような帽子がトレードマークの弓騎士ヴェッキオは、帝都タイラスルスで見せた神業のような弓の腕をなかなか発揮できないでいた。
あまりにも敵の攻撃が苛烈すぎて、矢を放っては荷車の後ろに隠れるなどしなければ、矢を浴びるのは彼の方だ。
現に、彼は一瞬隠れるのが遅れたせいで、お気に入りの帽子を矢が掠めて、彼の頭から落ちてしまうほどだ。
「反撃なら私が喰らわせてやるわ、みんなもう少し耐えて!」
「ロザーヴィア、頼んだ!」
数少ない頼りになる反撃の手段の一つが、ロザーヴィアなどの魔術師系の生徒による、魔術攻撃だった。
ロザーヴィアの大規模な炎攻撃が遊牧民の集団に直撃すると、一撃で10数人の敵が消し炭になったが、それでもなおあふれんばかりの遊牧民たちは、攻撃の手を緩めなかった。
「あいつらどんだけ矢を浴びせてくるつもりだ! 畜生っ、突撃して蹴散らしてぇぜ!」
「ダメだ、今はまだ耐えてくれ! 矢を撃ち尽くせば奴らもあきらめるはずだ!」
最前列で馬まで鎧に身を包んで、大きな盾を構えて立ち続けるブランシャールには、すでに盾だけでものすごい数の矢が突き刺さっており、僅かながら鎧の薄い部分を貫通した矢が彼に傷を負わせている。
突撃したいのは山々だが、ブランシャールは重装備ゆえに身軽な遊牧民と比べて機動力に劣るので、例え突撃しても逃げられながら全身に矢が刺さるだけにしかならないだろう。
こうして、白竜学級の生徒たちは、遠征史上最大の窮地に立たされたのだった。




