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聖剣を継げなかった少年は、魔剣と契りて暴君を志  作者: 南木
第1章 魔剣エスペランサ
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第20話 新生アルトイリス軍

「モントレアル侯爵領に魔族軍が集結中だって?」

「はっ、先ほどモントレアル侯爵家から早馬が参りました。すでにモントレアル侯爵領ではいくつかの村が被害に遭っているようで、侯爵の居城も包囲されつつあるとのこと。一刻も早く救援を送ってほしいと手紙には記されております」


 早朝にもかかわらず、リクレールはサミュエルから、隣国のモントレアル侯爵領がどこからともなく表れた魔族軍残党の攻撃を受けているとの報告を受けた。

 エスペランサの予想はまさしく大当たりだった。


「……僕の見立てでは、魔族たちは人間たちが油断するまで森や山に潜んでいて、それが一気に集まったんじゃないかと思う」

「某もそのように考えます。リクレール様が先日家臣たちに軍備を整えるように命じたのは、もしやこれを予見されていたと……」

「うん……士官学校にいた時に僕なりにいろいろ調べてみたんだ。魔族たちはそう簡単に獲物を諦めず、一度や二度の撃退に遭っても奪う物が無くなるまで貪欲に襲い続けると。前回の戦いでは、僕たち人間も敵の魔族も痛み分けだったから、彼らはまだ戦利品を満足に得ていないはず。ならば、最後の最後まで虎視眈々と狙っているんじゃないかと考えたわけだ」

「そこまで考えていたとは、敬服いたしました。某も長年魔族と戦っているにもかかわらず、このような視点がなかったのは反省せねばなりませぬな」

(まあ、僕もエスペランサからの受け売りなんだけど)

『うふふ、気にすることなどございませんわ。わたくしの知恵で得た功績はすべて主様メーテルの功績、わたくしの力で得た称賛はすべて主様が浴びるべきでございます』


 他人の知識の受け売りで褒められるのはなんだか違う気がしてあまり喜べないリクレールだったが、かといって「全部エスペランサが考えてくれました」なんて言えるわけがない。

 釈然としないながらも、リクレールはすぐに家臣たちに通達を送った。


「明日には各自が提供した兵を編成してモントレアル領に向かう。明日までに集合できなかった分は、アンナさん……いや、アンナに予備として率いてもらう」

「私がですか? それは構いませんが、私の配下の兵は連れていかないので?」

「幸い兵はそれなりに集まっているし、むしろ留守中に領内が危機になったら本末転倒だ。早速大変な役目を任せるけど、アンナならこなしてくれると信じてるよ」

「……かしこまりました。リクレール様こそお気をつけて」


 留守番を任せられたアンナだったが、今はそれこそが重要な役目だと言われると彼女としてもまんざらではないようだ。


「トワ姉、シャル、聞いての通り隠れていた魔族の残党が現れた。姉さんがいない今、この地を護れるのは僕たちだけだ。急いで準備を」

「ええ、こんなこともあろうかと、私の騎士団はすぐに動ける用意ができているわ」

「俺の方も準備万端だ。念のため回復術が使える聖術士も連れてきている」

「ありがとう二人とも、すごく助かるよ」

「けどリク、本当にあなたが出陣するの……? 必要なら私が陣頭指揮を執ってもいいのだけど」

「俺も正直、そんな馬鹿デカい剣担いでいてもお前には前線に出てほしくないんだが……」

「大丈夫大丈夫、むしろここで僕がきちんと戦えるところを見せないと、家臣たちはいつまでたっても僕を主と認めてくれないからね」


 リクレールは心配ないと強がってはいるが、彼が荒事に全く向いていないことをよく知る二人は、前線に立とうとするリクレールが不安でたまらなかった。


(今リクを失ったら、マリアに対してあの世で顔向けができない……命に代えても、私が守り抜かなくては)

(いくら魔剣の力があるとはいえ、リクは戦うのが嫌いだったからなぁ。俺が何とかしなきゃ……)


 そんな二人の心配をよそに、リクレールは各所に命じて出陣の準備を急がせた。

 兵の招集を命じられた時は半信半疑だった家臣たちも、流石に隣国が魔族の軍勢に襲われていると知ると、慌ててリクレールの指示に従った。

 その結果、次の日の朝には600人より少し多いくらいの兵が集まり、これに加えてヴィクトワーレの騎士団とシャルンホルストの部隊も含めれば900人に少し届かないくらいの人数を確保することができた。

 リクレールにとって意外だったのは、彼が当主になるのに懐疑的だった派閥の筆頭だった、太っちょ貴族のガムランが一番多くの兵士をかき集めてきたうえに、彼自身も武器防具を用意して戦いに加わることを希望してきたことだった。


「まさかガムランが200人も兵士を用意してくれるなんて……助かるけど、本当にいいの?」

「ええ、もちろんですともリクレール様! 伝統あるアルトイリス家の貴族として当然の行いです!」


 そう言って立派なお腹を揺らしながら自信満々に笑うガムランだったが……彼の家は元々商人であり、3代前の当主が多額の金銭提供と引き換えに貴族の地位と領地を手に入れたいわゆる買官貴族なので、「伝統ある」という言葉は周囲にとっては皮肉にしか聞こえなかった。

 ともあれ、(予想通り)ほかの貴族が兵力や物資を出し渋る中、大盤振る舞いしてくれたことは非常にありがたいので、感謝こそすれ文句を言う筋合いはない。

 準備が整ったことを確認したリクレールたちは、アンナに城の留守を任せて、モントレアル侯爵領へ急行していったのだった。


キャラクターノート:No.011


【名前】ガムラン・トレンタージュ

【性別】男性

【年齢】35

【肩書】アルトイリス家貴族

【クラス】ソルジャー

【好きなもの】お金 美食

【苦手なもの】ランニング

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