第195話 ロディ渓谷の崩落戦 7
一連のコンクレイユ軍の丸太攻め、落石計により、藍熊学級も黄獅子学級もほぼ壊滅状態となった。
士気は完全に崩壊しており、最後の力を振り絞った根性も、襲い来る落下物により粉々に打ち砕かれた。
その上、誰もが少なからず怪我を負っており、このようなボロボロの状態では防衛陣地への攻撃は不可能であった。
特に気の毒なのは黄獅子学級で、術の詠唱のために棒立ちだった魔術士たちがほぼ全員丸太や落石に巻き込まれた上に、担任のロシームまでも転がり落ちた丸太の下敷きになり、命までは失わなかったものの足が潰れ、肋骨や腰の骨が砕けるという重傷を通り越して瀕死の状態にあった。
「ぐ……ぅぅっ」
「先生! しっかりしてください! すぐに治療しますからっ!」
「ひどいケガだ……こうなってはもう助からないぞ」
「ラマズフテ先生! すぐに撤退の許可を!」
「わかっている! 退け退けぇっ! すぐに奴らが押し寄せてくるぞ!」
もはや怪我人にかまっている余裕はなく、生き残った者たちは這う這うの体で逃げ始めた。
ラマズフテもまた体のあちらこちらに傷を負っていたものの、なんとかその場に立って武器を構える気力はあった。
そして、一教師である以上に武人として名高いラマズフテは……すぐにコンクレイユ軍がとどめを刺しに来ることを予見した。
(私は……間違っていた。己の栄達のために、優秀な生徒たちを大勢死なせてしまった……! かくなる上は、少しでも多くの生徒を逃がしてやらねば!)
周囲の誰もが逃げ惑う中、ラマズフテだけはコンクレイユ軍の陣地に背を向けることなく、愛用の斧を杖代わりにその場に立ち上がって盾を構えた。
少しでも多く、愛する生徒たちを逃がすために……
そしてすぐに、彼の予想は的中した。
陣地の門が勢いよく開かれ、今度は丸太でも岩でもなく――――完全武装の人間たちが大勢現れた。
「コンクレイユの勇士たちよ、今こそ僭称者マルセランと、それに与する者たちに正義の鉄槌を下す時が来た! 全軍、突撃!」
「「「応!!!」」」
ベルリオーズの号令と共に、コンクレイユ軍の騎士たちが怒号を上げながら坂を駆け下りる。
その勢いは凄まじく、退却が遅れた帝国兵たちは文字通り「跳ね飛ばされる」ように撃破されていった。
その中で、ただ一人彼らに立ち向かおうとラマズフテは、その勇気が認められたのかベルリオーズ自らが彼の前に立った。
「誰かと思えば、久しいなラマズフテ将軍」
「ベルリオーズ殿……このような形での再会となったのは誠に残念です。しかし、これも運命なのでしょう」
「そうだな。だが、ワシは貴様のそういうところが嫌いではない。ゆえに、ワシ自らが引導を渡してやる!」
ベルリオーズが剣を抜き放つと、ラマズフテも負けじと斧を構える。
お互い立場は違えど、かつては魔族と戦うためにともに肩を並べたこともあった武人同士、お互いに敬意を払いつつも全力で武器を振るいあった。
ベルリオーズの剣技は非常に洗練されているだけでなく、パワーもすさまじい。
彼が持つ宝剣セルヴァンは、分厚い鋼鉄でできたラマズフテの鎧を切り裂き、盾を拉げさせてもなお切れ味が一向に衰えることなく、ラマズフテは徐々に追い詰められていく。
そして――――ラマズフテが斧を振るう時にわずかに体勢を崩したのを見逃さなかったベルリーズは、彼の横を一瞬で通り抜け、脇腹から横に大きく切り裂いたのだった。
「ぐ、ぐわぁぁっ!!」
「脇が甘かったなラマズフテ。もうよいだろう、ここまでだ」
坂道に倒れ伏し、ほとんど動くこともできず苦しむラマズフテに、ベルリオーズは最期の慈悲とばかりに剣で喉元を貫き、死に勝る痛みから解放した。
こうして、士官学校随一の勇猛さを誇った藍熊学級の教師は、黄獅子学級の担任ロシームと共にロディ渓谷で命を落とすこととなる。




