第194話 ロディ渓谷の崩落戦 6
魔術を得意とする学生たちや、彼らとともに戦う魔術兵たちは、飛来する矢に恐怖しながらも術で火球を練り上げる。
それは、タイラスルスで白竜学級の生徒ロザーヴィアが見せた巨大な火球よりかは遥かに小さいが、それでも数十名の術士が一斉に放てば、その破壊力は凄まじいものがある。
「ファイヤーボール、放て!」
ロシームの号令と共に、魔術士たちが練り上げた火球を指定された目標に向かって放つ。
弓兵の射程に比べると大幅に劣るが、威力が大幅に勝る炎の球が術士たちの手から離れ、それらが次々に木製の防壁に命中していく。
これにより、木製の防壁が一気に破壊されるとともに、残っていた部分も乾燥している冬の空気の中で一気に燃え上がる。
だが……それこそが、ベルリオーズの仕込んだ最後の罠であった。
防壁が崩れたとたん、その後ろに大量に積まれていた丸太が軋みを上げて転がり始め、その上火球による炎が延焼してしまう。
「な……なんだあれは!? あんなにたくさんの丸太が!?」
「おいウソだろ!? こっちに転がってくるぞ、あぶないっ!!」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
激しく燃え盛りながら、斜面を転がり加速する大量の丸太が、士官学校生徒たちに襲い掛かる。
ラマズフテやロシームすらも、あまりにも予想外かつ悪辣すぎる罠相手にとっさの反応ができず、哀れ彼らは大量の丸太にひき潰されるか、逃げ惑うことしかできなかった。
こうして、せっかく最後まで陣形を維持していた藍熊学級の重装備の生徒たちはたちまちバラバラになったうえで大損害を被り、後ろにいた魔術士たちももはや術攻撃を続けることはできない。
だが、ベルリオーズの悪辣な攻撃はまだ止まらない。
「かつてワシも……魔族の陣地を攻めた際、このような原始的な罠にかかったものだ。あの時の屈辱は今でもはっきり覚えている……ゆえに、このように意趣返しをしてやることもできるのだ。まあ、相手が人間であるというのが皮肉だがな。ジュネス、合図だ」
「はっ」
ジュネスが合図を発すると、一か所だけ設置されている木製の門が開き、そこに兵士たちが大きな岩を運んできた。
攻撃側は大混乱に陥っていたこともあり、大きな岩が出現したことにほとんど者が気が付かなかったが、何とか態勢を立て直したラマズフテは、すぐに今まで以上にマズイものが来ることに気が付いた。
「い、いかん! 落石計だ! 退避しろ、たいひーっ!!」
人の身長を超えるほどの巨大な球状の岩石が、満を持して士官学校生徒たちに襲い掛かる。
これにより、丸太の罠を生き残った者たちは無慈悲にも岩にひき潰され、それでもなお勢いが衰えることなく、暴れまわるように跳ねながら、後続の坂を登る帝国兵たちを地面の染みに変えていった。
この岩一つにより、緩やかな傾斜にいる多数の人間に打撃を与えて止まるまで、実に300名近くの兵を戦死、もしくは体の一部を損壊させるほどの大怪我を負わせた。
人の血糊で全体が紅に染まったこの岩は、後世「悪魔の岩」と呼ばれたという。




