第192話 ロディ渓谷の崩落戦 4
街道上で帝国兵たちが投石攻撃に動揺している間にも、モーガンたちは次弾装填用意を進めていた。
とはいえ、これだけ大きな投石器となると一回攻撃の用意をするだけでもそれなりの時間がかかる。
「ちっ、直撃しなかったか。だが焦ることはねぇ、奴らとはまだ距離がある、手順通りにロープを巻き上げろ。その間に向きと射程を調整すっぞ!」
モーガンたちは先程着弾した場所からどの方向と距離に飛ばすのがよいかを計測しなおし、今度こそ直撃ルートを狙う。
やはり大型だけあって、細かい着弾修正は難しかったが、以外にも設計者が操作部分にだいたいの距離の計測目安となるメモリを組み込んでくれたおかげで、だいたいどのくらい調整すればいいのかがわかるようになっていた。
その間にも、帝国軍は一時的な混乱から立ち直り、これ以上投石器の餌食になるわけにはいかないと、必死になって坂を駆け上ってきていた。
「発射準備完了!」
「よーし、今度こそ直撃させるぞ、放て!!」
投石器から二発目の石弾が発射される。
射程を調整した甲斐あって、今度は見事に敵集団のど真ん中に直撃した。
「「「わあぁぁぁぁっ!!!???」」」
1つが20パルム(1パルム=約450g)ほどもある石弾が頭上から降り注いだことで、直撃した場所にいた兵士たちは盾すらも粉砕され、即死もしくは大怪我を負ったほか、着弾した際に砕かれた石弾の破片が周囲に飛び散り、直撃しなかった兵士たちにも大ダメージを与える。
こうして、直撃した場所には見事に血と肉の絨毯が広がり、それを間近で見ていた帝国兵たちにも強い精神的なショックを与えた。
「ひ……ひぃっ」
「あんなものが直撃したらひとたまりもない! 逃げろ!」
「馬鹿野郎、後ろがつっかえてるんだ、さっさと前に進め!」
恐怖のあまり、坂を登るのを止めて逃げ出そうとする帝国兵もいたが、後続の部隊が後ろから押し寄せており、後ろに引くことなどできなかった。
「とにかく進め! ここにとどまったら死ぬぞ!」
こうして、頭上から降り注ぐ死の危険におびえながら、帝国兵たちは必死に坂道を登っていった。
だが、さらに先に進もうとすると今度は櫓や高台の上から弓兵が矢を浴びせかけてくる。
ちょっとした城壁以上の高低差がある高さから放たれる弓矢は、盾を掲げていない兵たちの鎧を容易く貫き、陣形を崩してしまった者たちを容赦なく死に至らしめるか、負傷を負わせる。
そのため最前列の兵たちは再び盾を構えずにはおれず、再び進む速度が低下、その結果さらなる渋滞を巻き起こしてしまうのだった。
「ま、マルセラン様大変です! 反乱軍は防衛施設に投石機を建造しているようで、攻撃中のわが軍は大損害を被っております!」
「それはまことか……ベルリオーズめ、用意周到だとは思っていたが、まさか投石器まで持ち出すとは!」
前線が阿鼻叫喚の地獄絵図となっている中、ようやく後方のマルセランの陣地に前衛部隊の大苦戦の報告が入った。
報告を聞いたマルセランも、まさか敵が投石器まで用意しているとは思いもしなかったようで、かなり動揺している。
「防衛陣地だけなら力攻めもできたであろうが、兵器まであるとなれば話は別だ…………いったん兵を引かせるべきか」
マルセランがそのようにつぶやくと、傍にいたシェムスタ侯爵ヴィシーニが慌てて止めに入った。
「陛下っ、今ここで下がっては敵の追撃を受け、より大きな損害を被るでしょう! このまま攻めるべきです!」
「しかし…………」
「以下に投石機と言えども、一度に部隊丸ごとを全滅させるほどの威力はありますまい! 前線の将兵たちには苦労を掛けますでしょうが、ここは心を鬼にし、攻撃を続行すべきです!」
「…………わかった。ロシーム殿の学級にも前進し防衛施設を破壊するよう命令せよ」
「はっ!」
こうして、撤退命令が出されることはなく、帝国軍は絶望的な攻撃を続けさせられることとなった。




