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聖剣を継げなかった少年は、魔剣と契りて暴君を志  作者: 南木
第9章 ロディ渓谷の崩落戦
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第188話 凍てつく行軍

 一方で、帝都タイラスルスを出陣したマルセラン率いる帝国軍本体と、付き従う士官学校の生徒たちは、帝国から東の方に伸びる街道を進み、西帝国北方地域から時計回りにシェムスタ領へと進軍していった。

 初めのうちは次期皇帝の地位をほぼ確固たるものにしつつあるマルセランの親征ということで、騎士や兵士たちの士気は高く、足取りも軽かったが…………折しも現在は冬真っただ中である。

 平野を吹き抜ける風は強く冷たく、体の芯まで凍てつきそうな気候は、兵士たちから徐々に体温と体力、そしてやる気をじわじわと削いでいく。

 石畳の街道が整備されているとはいえ、西帝国北方地域は積雪地帯でもあるため、積もった雪が乱雑に踏まれて泥濘となり、彼らの靴が氷のような水分を吸っていった。


 辛い表情を浮かべる騎士や兵士たちを見て、マルセランは今回の出征は誤りだったかと何度も考えたが、無理を言って編成して出陣した以上、そのようなことは口が裂けても言えなかった。

 しかも、領地を奪われたシェムスタ侯爵ヴィシーニは一刻も早く自領に戻るべく行軍をせかしており、兵士たちは途中の町に到着するまで休むこともままならず、疲労がたまる一方であった。


「シェムスタ候よ……さすがに騎士や兵士たちが疲れてきている。一度、数日間の休養をさせるべきではないか」

「そ、そのようなことを言っている場合ではありませぬぞ陛下! 1日でも早く反乱軍を討伐せねば、彼らは力を蓄え、撃破に時間がかかってしまいますぞ!」

「しかし…………」

「陛下、大丈夫です! 優秀な我が生徒たちと帝国の精鋭の力を信じてくだされ!」

「そうですとも、休養はシェムスタ領に到着してから十分に行うべきです」

「そなたらがそこまで言うのであれば」


 なんだかんだで心優しいマルセランは、凍てつく寒さの中での強行軍に苦しむ帝国軍をかわいそうに思い、途中の大きな街に到着した際は、兵士たちをしばらく休ませるよう命じようとしたが、ヴィシーニをはじめとした貴族や将軍たちはもとより、アドバイザーの立場にある藍熊学級の担任ラマズフテと黄獅子学級の担任ロシームまでが、一刻も早くシェムスタ領を解放すべきと言って反対したため、結局マルセランの意見は通らず、そのまま強行軍で行軍を続けることになった。

 こうして、満足な休息も取れないまま凍てつく寒さの中の行軍を強いられた騎士や兵士たちは、次第にマルセランに対する不満を心の中にくすぶらせていた。

 だが、彼らよりももっと不満たらたらだったのが…………従軍している士官学校の生徒たちだった。


「さむい……さむすぎるよぉっ! もうヤダ、帰りたいぃっ!」

「一体いつになったら目的地に着くんだ! もう限界だぞ、これ以上歩きたくねえよ!」

「畜生っ、先生たちは俺たちを凍死させる気か!?」


 西帝国まで来る間の船旅もかなりの地獄だったが、一度帝都でぬくぬくしていた彼らにとって、この真冬の行軍も負けず劣らずの地獄に感じた。

 今度こそ白竜学級より功績を立ててみせると勇ましかった若者たちの笑顔はどこへやら……彼らは一様に歯を食いしばり、この世のすべてを呪ってやらんばかりの形相で歩き続ける。

 そんな彼らをさらに苛立たせたのが、自分たちの後ろから偉そうな声で叫んでくる白竜学級の面々だった。


「どうしたお前ら、栄光ある士官学校の生徒なんだからもっとシャキッと歩けよ!」

「そうだそうだ! 戦う前からそんなんじゃ、また俺たちが手柄を上げるぞ!」

「寝たら命に係わるわ。眠たくなったら言いなさい、ビンタしてあげるわよ」


 アヴァリスをはじめとする白竜学級の生徒たちは、平然とそんなことを言っているが、実はなんだかんだで彼らも寒さと疲れに辟易している。

 それでもさすがはエリートたちだけあって、このような厳しい中でも一切弱音を吐かずやせ我慢を貫き通すのは、ある意味賞賛すべき精神力と言えた。


 こうして、帝国軍本体は途中で脱落者を出しながらも、ひたすらシェムスタ領に向って地獄の行軍を続けていくことになる。

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