第170話 活躍保証
「マルセラン様! どうか、次の戦いでは我ら藍熊学級の生徒に先陣をお任せください! きっと、マルセラン様のお役に立って見せましょう!」
「私ども黄獅子学級も、白竜学級に負けず劣らず優秀な生徒がそろっております。ご命令いただければ、必ずや多大なる戦果を挙げて御覧に入れますぞ」
「おお、これは頼もしい! 先の内乱では白竜学級の生徒たちばかりを引き立てて申し訳なかった、だが私もそなたらの力を頼りにしている。望み通り、次の戦いでは双方に主力を任せよう」
「「ははっ!」」
「…………」
ここぞとばかりに露骨に自分たちの生徒を売り込む二人の教師を見て、デュカスは彼らに見えぬよう小さくため息をついた。
結局彼らもきれいごとを並べてはいるが、自分たちとその生徒の栄達しか見えていないというのが丸わかりであり、そのことをマルセランが窘めないのも若干不安ではあった。
だが、そこに一人の貴族の男が歩み寄ってきた。
「話は聞かせてもらいました! お二人と生徒の方々には、私から活躍の場を差し上げたく存じます!」
「あなたは、シェムスタ侯爵ヴィシーニ殿!」
声をかけてきたのは、豪奢な毛皮のマントを羽織った、頭髪がやや後退気味の男……シェムスタ侯爵のヴィシーニだった。
コンクレイユ侯爵家と北で領土を接する有力諸侯であり、所領の豊かさはブレヴァン侯爵領に勝るとも劣らないシェムスタ侯爵家は、忌々しい「オルセリオ協約」を打破するために真っ先にマルセラン派へと加わった。
彼もまた表向きは帝都で行われた新年の宴に参加するということで帝都に赴いており、今回の内乱でもマルセラン側に多大な支援を行って物資や装備を充実させたのである。
「これからマルセラン様率いる帝国軍は、新たな皇帝の即位を認めないコンクレイユ家とアルトイリス家を征伐する予定とのことですが、その出陣の拠点となるのは我がシェムスタ侯爵領となるでしょう。長年我が家の足枷となっていたコンクレイユ家を叩き潰す絶好の機会……! ゆえに、あなた方には最善の状態で戦っていただきたいのです!」
「なるほど、ヴィシーニ殿のご助力に感謝申し上げる!」
「ご期待に沿えるよう、生徒一同全力で戦ってまいりましょう」
こうしてヴィシーニがラマズフテとロシーム両名と固い握手を交わし、マルセランが笑顔で両者の肩を持っていたが、デュカスはよりもやもやが強くなった。
(シェムスタ侯爵家がコンクレイユ家を足枷扱いする、か……奴ら豊かな自領が魔族軍から守られているのは、代々のコンクレイユ家とアルトイリス家の奮闘があったからということを知らないのか? オルセリオ協定で強制的に隣国を援助させられたのは不満やもしれんが、その二国を併合すれば、次に魔族の侵攻があった際に矢面に立つのはシェムスタ侯爵家だというのに。まあ、よいか。トライゾンが言うには、西帝国は魔族との決戦を避け、領土を守りやすい範囲まで縮小してでも守りに徹するそうだが、そのためには――――)
と、考えているところで、デュカスはふとある重大なことに思い当たった。
「……いやまて、なぜシェムスタ侯爵がまだ帝都におられるのだ!」
『え?』
デュカスの叫びに、4人は目を点にしてきょとんとした。




