第167話 デュカスの憂鬱
内乱が鎮圧され、トライゾンが帝都を離れた後も、マルセラン一派はしばらく戦後の後処理に忙殺されることになった。
政府機関が一時的に麻痺したことによる行政の混乱、破壊や略奪によって急速に悪化した治安の回復、さらには新年早々西帝国皇帝となったマルセランを心から支持する諸侯らからの挨拶とそれに対する対応などなど……帝国の再統一のためにすぐにでも動きたいところではあったが、軍の編成も済んでいない以上、マルセランたちはしばらく帝都に腰を据えることになる。
また、いまだ行方が知れないレオニスが見つかったという報告は入っていないが、逆に彼がどこかで蜂起したという報告も入っていないため、そこまで慌てる必要もないだろうという雰囲気が徐々に漂い始めていたのである。
「デュカス先生、今度はガリエリ伯爵をはじめとした3つの諸侯が、軍に加わりたいと申し出てまいりました。兵力はおよそ700……」
「またか……来るならあらかじめそう言えと言っておろうに、全く……軍の編成を任されるこちらの身にもなってほしいものだ」
トライゾンが帝都を離れてから7日が過ぎた。
デュカスはトライゾンから頼まれていた軍の再編成に没頭していたが、作業は遅々として進まなかった。
原因は先ほど彼自身がぼやいていたように、ここ数日で日和見していた諸侯が事前の通知もなく続々と軍への参加を表明してきたので、そのたびにいちいち編成の一部の見直しを迫られているからだ。
幸い、白竜学級の副級長ともいえる立場のレイアが手伝いを申し出てくれたおかげで、デュカスの負担自体は減っているが、このままでは当初予定していた10日以内の再編成は難しいだろう。
「そこまで急ぐ必要はないとはいえ……やはり計画が遅れるというのは、どうも落ち着かないな」
「ではアヴァリスたちにも手伝わせますか?」
「確かにそういった経験も必要ではあるが、今寄ってたかって手伝われても却って足手まといになるだけだ。あいつらには出陣するまで軍の訓練や治安維持に集中させ、少しでも戦場でよく戦えるよう努めてもらわねばな。むしろレイア、お前にはまだそこまで軍の編成作業を教えていないにもかかわらず、素晴らしい働きだ。おそらくは……此度の一連の「実戦訓練」ではお前の働きが最も重要になるかもしれんな」
「いえ、それほどでは。私はこういった後方での作業も苦になりませんので」
昨今の士官学校の生徒たちは、東帝国や校長たちの指導方針もあって軍を統括する「将」よりも、前線で武勇を振るう「騎士」が求められている。そのため多くの士官学校生徒たちは、知勇兼備ではあるが目立ちたがり屋が多く、レイアのような軍師としても活躍できるような存在が少なくなりつつある。
デュカス自身も気づかぬうちに学校の方針に染まっており、今回の戦いで後方支援に徹する人材が不足していることに今更ながら気が付き、後悔しつつあった。
(とはいえ、あのリクレールのような戦う力を持たぬ者など、言語道断ではあるがな)
そんなことを考えながら、デュカスが書類仕事に没頭しているところに、突然来客があった。




