第162話 後継争いの勝者
歩兵たちが運んできた即席の破城槌を見たヴァリク派の兵士たちは、このままでは門が突き破られるという危機感に駆られることになる。
「あいつら、柱で門をぶっ壊す気だ! 早く止めろ!」
「し、しかし……敵の反撃が激しく、射手たちの被害も甚大です! とても反撃できる状況では……」
「くそっ! 何でもいい、門の前にありったけの物を積み上げろ! 少しでも補強するんだ!」
彼らは慌てて門の補強を試みるが、適当に物を積み上げたところで大した補強にはならず、十数人の手で運ばれた石柱で何度も打ち付けられた鉄扉は、あっという間に拉げて突破されてしまった。
「よし、今だ! 全員突撃!」
『応っ!!』
レイアの号令で官学校の学生と彼らに従う騎士たちは一斉に館の中へと突入した。
一方で、扉という最大の防御がなくなったヴァリク派の騎士たちも、少しでも敵の侵入を食い止めようと破壊された門の前に殺到した。
「く……ヴァリク殿下をお守りしろっ!」
「させないわっ!」
ヴァリク派が最後の抵抗を見せる中、レイアも自ら剣を抜いて先頭に立ち、敵陣へと斬り込んだ。
彼女が手に持ったレイピアはその繊細な見た目に反して非常に頑丈かつ鋭く、さらに彼女自身がシャルンホルストと同様に魔術剣の心得があり、氷の術が乗った一突きは分厚い鎧を薄紙のように貫く。
その上剣技だけでなく、足捌きも非常に華麗で、まるで舞い踊るかのような優雅な動きから繰り出される刺突は、並の騎士ではとても避けられなかった。
「流石はレイア先輩だ、僕たちも負けていられないぞ!」
「私たちは残った射手を片づけるわ。そっちは頼んだわよ」
「弓兵は引き続き歩兵の援護を続けろ!」
こうして敵の防衛線は一気に突破され、これ以上戦うのは無理だと判断した敵部隊は次から次へと武器を捨てて降伏していく。
そして、味方が次々とやられ、あるいは降伏していくのを見たヴァリクも、これ以上の抵抗は無意味であることを悟った。
「これまでか……我々も降伏する。マルセランの叔父上には私自ら弁明しよう」
元々ヴァリクはアシュドットに対抗するためだけに、親しい貴族たちに担がれて決起しただけだったので、兄とは違ってそこまで皇帝の座への執着はなかった。
彼は自身や家族の生命の安全を条件に、武器を手放して降伏したのであった。
アシュドットが捕えられ、ヴァリクが降伏した今、内乱を起こした主要人物が軒並み消え去ったことで、各地で発生していた戦闘も急速に収束していった。
中には自棄になって徹底的に抵抗した者たちもいたが、数日もしないうちに片っ端から鎮圧されていく。
こうして、元旦から5日間にわたって続いた、後継者争いを端に発する内乱は5日にして沈静化することになる。
そして、正統な後継者だったレオニスが亡くなり、第二皇子、第三皇子が失脚した今、次期皇帝となるのはマルセランだけになる…………はずであった。




