第160話 第二皇子アシュドット
マルセランの軍はまず第二皇子アシュドットの軍を片づけるべく、彼が陣取る宮殿の中心部へと歩を進めた。
途中いたるところで小競り合いが発生していたが、防衛線などは張られておらず、彼らはいともあっさりと敵陣を突破していく。
そして、ついにアシュドットのいる玉座の間までたどり着くと、アヴァリスたちが馬から降りて剣を抜いた。
「アシュドット殿下、これ以上の抵抗は無意味です。手荒な真似は致しませんので、どうか武器を捨てて降伏を」
「ちっ、若造どもが何を言うか! 西帝国は俺のものだ、マルセランの叔父貴なんかに従うかよっ! お前ら、あいつらは次期皇帝に逆らう反逆者だ、皆殺しにしろ!」
アヴァリスが諭すように降伏を勧告するが、当然のごとくアシュドットはそれを拒絶し、彼に忠実な騎士たちに攻撃を命じる。
帝国兵士ならまだしも、流石に西帝国直属の騎士団となるとその戦力は精強で、士官学校生徒を中心としたマルセラン軍と一進一退の攻防を展開した。
「アシュドットは必死に抵抗しているようだね。デュカス殿、この際宮殿の一部に被害が出ても構わない、高威力の魔法を用いて彼らに警告を与えるんだ」
「マルセラン様のご命令とあらば……」
歴史的価値の高い西帝国の宮殿の一部を吹き飛ばせというマルセランの命令に若干躊躇するデュカスだったが、すぐに生徒の一人に呼び出した。
「ロザーヴィア、いるか」
「くくく、あたしの出番かい先生……」
「ああ、多少の損害はマルセラン様も覚悟の上らしい。その代わり、なるべくあまり人がいない場所に撃ち込むのだ」
「りょーかいっと!」
左目が隠れるほど伸ばした艶やかな茶髪と、金の刺繍が施されたド派手なドレスに身を包んだ女子生徒ロザーヴィア。
士官学校でも数多くいる魔術士の中でも、炎系統の魔術なら右に出る者はいないと称される彼女が、白檀で作られた杖を両手で掲げると、先端に凄まじい熱量を放つ火の玉が出現した。
「あ、あれは……!? まずい、全員退避しろ!」
その魔法を見たアシュドットの近衛騎士が慌てて警告するが、時既に遅し。
ロザーヴィアは杖を振り下ろし、火球を放つと、凄まじい轟音と共に宮殿の天井部分を大きく吹き飛ばしたのである。
「今度は足元に気をつけるんだな……それっ!」
続いてロザーヴィアが杖で前方を指し示すと、小さな火の玉が一直線に飛び、それが床に着弾すると…………突然炎が噴き出て大爆発を起こした。
「うぎゃぁぁぁぁぁっ!」
「あちちちっ! な、なんだこれは!?」
「に、逃げろぉぉぉぉ!」
天井に続いて、床からも爆発的な威力の炎術が襲い掛かったことで、アシュドット側の陣形は一気に崩れた。
中にはすでに形勢不利と見た騎士もおり、命を失うよりかはと一部で投降する動きも見られた。
なんだかんだでアシュドット側についている貴族や騎士たちの大半は、自らの利益が目的だったので、最後まで忠誠を尽くす義務はないと判断してからは一気に離脱者が相次いだ。
「おい、お前たち逃げるなっ! 最後まで俺を守れっ!」
「よし、護衛はすべて排除した! アシュドット様を捕えろ!」
「な、なにをする! 俺を誰だと……ぎゃっ!?」
こうして、遺言状を偽造してまで自ら後継者となろうとした野心高きアシュドット第二皇子は、白竜学級の生徒たちによって瞬く間に取り押さえられ、縄を打たれた。
彼はそのまま降伏しなかった貴族たちと共に、城内にある牢屋に収容されることとなる。




