第153話 タイラスルス郊外にて
さて、話は一度、年を越す前まで遡る。
リクレールたちが傭兵や労働者たちを率いて辛い山越えに苦しんでいた頃――――士官学校でリクレールに散々恥をかかされたアヴァリスをはじめとした白竜学級の生徒と、彼らと行動を共にする藍熊学級、黄獅子学級の生徒たちは、西帝国帝都タイラスルスの郊外にある港に続々と船から降り立っていた。
だが、極寒の北の海を耐氷船で無理やり進んできたので、大半の生徒や、付き添いの兵士たちは厳しい寒さに加えて船酔いでグロッキーになっており、亡者のような足取りと土気色の表情でふらふらしていた。
「うぇっ……げほっ、おぇ……」
「おい、しっかりしろ! こんなところで倒れたら凍死するぞ!」
「生きてる……よね? もう、しばらく船はこりごりだわ」
そんな中でもアヴァリスは気丈に振る舞い、他の生徒たちを叱咤激励してなんとか船から降りさせていく。
「しっかりしろ、それでも誇りある士官学校の生徒か! まったく、これだから軟弱な連中は困る」
「そんなこと言わないの、アヴァリス。いくら屈強な戦士でも、船の揺れはどうにもならないわ」
悪態をつくアヴァリスだったが、彼の顔色もあまりいいとはいえない。
その隣でアヴァリスを嗜める白竜学級生徒の一人レイアもまた、屈強な精神力で何とか耐えていたが、やはりあまり元気はないようだ。
各々が吐瀉物をまき散らしながら下船しているところ、彼らを迎えに来た人物がいた。
「おお、勇敢なる士官学校の生徒諸君! 苦難の航海ご苦労だった、すぐそこに屋敷があるからしっかり体を温めて休んでくれ! 何しろ君たちは、今後の西帝国の運命を決める重要な存在なのだから!」
「ま、マルセラン様!?」
「皇弟マルセラン様直々にお出ましとは……!」
「なんて光栄なことでしょう! ああ、生きててよかった……」
皇弟マルセランが直々に出迎えたため、白竜学級の生徒はもちろん、付き添いの兵士たちも驚いて一斉に頭を下げる。
マルセランは50代半ばとなるというのに、オールバックにした青銅色の頭髪や立派に整った髭に白髪が一本も混じっておらず、比較的皴も少ない顔立ちの為、30台と言われても遜色ないくらい若々しくエネルギッシュに見えた。
身長も6スリエ(約183cm)を越える偉丈夫であり、(この時点ではまだ存命の)皇帝オルセリオ三世に従って魔族軍と戦い続けてきた風格も相まって、士官学校の生徒たちは思わず圧倒されてしまったようだ。
また、迎えくれたのはマルセランだけでなく、彼の直属である精鋭の騎士団や、マルセランの派閥に所属する西帝国の有力諸侯などもおり、その中には…………アヴァリスの父親であるブレヴァン侯爵の姿もあった。
そうそうたる顔ぶれを前に、東帝国から来た者たちが委縮する中、アヴァリスだけは堂々とマルセランの前に出て、その場に膝をついて恭しく一礼した。




