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聖剣を継げなかった少年は、魔剣と契りて暴君を志  作者: 南木
第7章 奇跡的に繋がった希望
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第139話 勇気と無謀

「それだけの兵力があれば、姉さんは……っ!!」


 もし、マリアが亡くなった魔族との戦いに、ブレヴァン侯爵が半分でも兵を出したいてのであれば、確実にあの悲劇は避けえただろう。

 リクレールは以前から先の戦いで助力しなかったブレヴァン侯爵を間接的ではあるが「姉の仇の一人」と認識していたが、どうやらアンナの報告を聞いて、その怒りが今まで以上に沸き上がったのだ。


(こうなったら、アルトイリス軍の全軍をもってブレヴァン侯爵軍を倒すほかない。相打ちになったって構うものか……エスペランサ、手を貸してくれるよね)

『お言葉ですが主様メーテル、今しばらくお待ちくださいませ。今の主様メーテルは頭に血が上っており、冷静な判断が難しくなっていますわ。それに、いくらわたくしが付いているとはいえ、5万を超える敵兵をことごとく斬り伏せるのは、主様メーテルの身体が持ちませんわ』

(けどっ!)

主様メーテル……勇気と無謀は違いますわ。このままユルトラガルド侯爵家を直接救援に行ったとしても、よくて相打ち、最悪の場合今度こそわが軍が全滅いたします。そのことがわかっている以上、決戦は避けるべきと考えますわ』

(そんな……エスペランサですらどうにもならないなんて)


 マリアが亡くなった後すぐ、モントレアル侯爵領を魔族軍残党が襲った時、シャルンホルストやヴィクトワーレにはたくさん助けられた。

 ならば今度は自分たちがシャルンホルストの家を救う番だというのに、それができないというのは、あまりにも悔しかった。

 魔剣の力をもってしてもどうにもならないと感じたリクレールは、己の無力さをかみしめたが……


『誤解なさらないで下さいませ、主様メーテル。わたくしはまだ、どうにもならないとまでは申しておりませんわ。正面から当たること自体が無謀なだけであって、策を練れば今の戦力でも十分対抗可能なはずですわ』

(ほ、本当に!?)

『シャルンホルスト様や、ご友人型の頑張り次第ではございますが、兵力差による不利を覆す方法はございますわ。わたくしが、主様のために華麗なる逆転劇を伝授いたします』


 そう言ってエスペランサは、リクレールに向って意味ありげにウインクを飛ばす。

 その姿にリクレールが見惚れていると、ゼークトが心配そうに声をかけてきた。


「なあ……リクレール、さっきから黙りっぱなしだが、気分でも悪くなったか?」

「あっ、ごめん! ちょっと頭に血が上っちゃったから、冷静になろうって自分に言い聞かせてた。今一番怒りたいシャルなのにね」

「リク……」

「ねえシャル、たぶん今すぐにでも家族を助けに行こうと思っているかもしれないけど、1日だけ待ってほしい。もちろん、まだトワ姉たちが到着していないというのもあるけど、この状況をどうやって打破できるか考えをまとめる時間が欲しい」

「何か思いついたんだな……あの時の戦場のように。わかった、俺もしばらく冷静になる時間が必要なようだし、色々あって考えがまとまらん」

「そーだな、まだ肝心の帝都で起きている皇子同士の争いの状況も分からんし、今は準備を優先しようぜ」

「アンナも偵察ありがとう。引き続き情報収集に当たってほしい」

「かしこまりました、リクレール様。なるべく多くの情報を集められるよう、最善を尽くします」

「やっぱり、あの時アンナを引き留めて正解だった。これからも期待しているよ」

「いえ…………」


 期待していると言われたアンナは、無表情に見えて口角がわずかに上がっているのをエスペランサは見逃さなかった。


『そうですわ、あなたのやりがいのために、さらに主様メーテルに尽くすのですわ』

(アンナが喜んでいるならそれでいいけど……)


 ともあれ、現時点では敵の戦力があまりにも大きく、真っ向から対決するのは無理だということが分かった。

 各人はいったん冷静に判断できるようになるまで一休みすることになり、ゼークトとデルセルトは再び大浴室に戻ってひと風呂浴び、シャルンホルストは赤ん坊の様子を見に行くことにしたのだった。


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