第135話 枯れた新緑
リクレールたちは一休みする前に体の汚れを落とそうと、大浴場で沐浴をしようとしていたところで、かなり慌てた様子で更衣室にレイが飛び込んできた。
「ご、ご主人様! 緊急事態ですっ! シャルロッテ様が……!」
「わわわ!? ちょっとまって、今着替え中だからっ!」
「も……申し訳ございませんっ! で、ですがっ!」
「わかった! すぐに着なおすからちょっと待ってて! おーい、みんな! 緊急事態だ、お風呂は後回しっ!」
「「「何だって!?」」」
急いで着替えなおしたリクレールたちは、レイと共に大浴場を後にし、大急ぎでシャルロッテの元へと向かった。
レイからの話によると、シャルロッテは出産を終えてようやく一息ついたところで急激に熱が出て苦しみ始めたのだという。
メルティナやべルアーブル、それに女官たちが必死になって看護にあたっているが、貴重な薬湯も回復術も効果がなく、このままでは命の危険もあるという。
果たして、彼らが部屋に駆けつけた時にはすでにシャルロッテは息も絶え絶えであった。
リクレールはかつて一度だけシャルロッテに会ったことがあり、ユルトラガルド家一族の遺伝である新緑を思わせる豊かな緑色の髪の毛に、深窓の令嬢といった雰囲気ながらもどこか芯の強さを感じたのだが、今やその身体はまるで枯れ木のように細ってしまい、リンゴのようだった頬もすっかり色が失われている。
そんな彼女を見て真っ先に近づいたのはシャルンホルストだった。
「伯母上っ! しっかりしてください伯母上っ! 俺はここにいます!」
「シャルン……ああ、最期にあなたと会えて、よかった」
「弱気なこと言わないでください、伯母上らしくない……いつものように前向きに笑ってくれれば……」
「そうですっ! シャルンホルスト様の言う通りです! せっかく助かったのですから、どうか気持ちを強くお持ちください!」
シャルンホルストとべルアーブルは必死になって声をかけているが、シャルロッテはすでに視力さえも失っているらしく、まるで二人を探るように、弱々しく震える手を持ち上げようとしていた。
二人はそれぞれの手を取りながら、メルティナに生まれたばかりの赤子を早く連れてくるように頼んだ。




