第13話 君に決めた
「明日はいよいよ本格的にこの地を離れることになる……か。一つの土地を離れるだけでこのような寂寥感を味わうとは、私らしくもない」
青いマフラーで口元を覆っているのが特徴的な、リクレールよりもかなり明るい銀髪の女性アンナは、窓の外で沈みゆく夕陽をじっと眺めながら、らしくもない感傷に浸っていた。
彼女が今は亡きマリアに声をかけられてアルトイリス領に赴任したのは3年前のこと。
正面戦闘は得意とするが、搦手がやや不得手だったアルトイリス騎士団において、貴重な牽制要員としてアンナは目立たないながらも期待以上に役目をこなしていた。
元々傭兵ゆえに侯爵家に代々仕える土着の家臣たちとの仲はあまりよくなかったが、それでも3年も経つと侯爵家や侯爵領にそれなりの愛着がわいたのかもしれない。
「マリアが亡くなり、聖剣アレグリアも移譲され、騎士団もほとんど移籍した。どのような形であれ、この領地はそう遠くないうちに消える。あの山に沈みゆく夕陽のように……これから長く暗い時代が待っているのだろうな」
そう思うと、余計物悲しくなってくるのだが、移籍すると決めた以上もはや止める手立てはないだろう。
そんなことを考えていると、不意に部屋の入口の扉がノックされた。
「こんな時間に、だれが何の用だ? シェリンか?」
「リクレールだ。入っていいかな」
「っ!? まさか、弟君!? 今開けます……」
あまりにも予想外の訪問者の声を聞いたアンナは、珍しく慌てた様子で、足早に扉を開けた。
あまり人付き合いがいいとは言えないアンナを訪ねてくるのは、親友のシェリンだけだと思っていたのだが、まさか当主を継いだばかりのリクレール自らが来るとは完全に予想外であった。
「休んでいるところ申し訳ないけど、ちょっとアンナさんと話がしたくて」
「いえ、お構いなく。話、というのは?」
アンナはリクレールを上座に通すと、二人はお互いにテーブルをはさんで向かい合った。
「単刀直入に言おう。アンナさん……あなたにはアルトイリス領に残ってほしい。」
「この国に残れ、ですと? 随分急な申し出ですね。一応、理由を伺っても?」
リクレールは早速本題を切り出すも、アンナの反応はいまいちだった。
しかし、今は話を聞いてくれるだけでも上々だ。
「それは、アンナさんがこの国にとって最も欠かすことができない逸材だからだ。ここでむざむざ移籍させてしまったら、アルトイリス侯爵家は立ち行かなくなってしまう。僕としては、なんとしてでもアンナさんの力を借りたい。それに、契約を更新した暁には給金を2倍支払いたい」
「なるほど、話したいと言ってきただけあって思っていた以上に口説き文句が上手ですね。まあ、ほかの2人にも同じことを言うのでしょうけど」
「いいや、エンデルクさんとシェリンさんには話をしてないし、これから話すつもりはない。僕が欲しいのは、あくまでアンナさんだけだ」
「なに?」
アンナは思わず自分の耳を疑った。
キャラクターノート:No.007
【名前】アンナ
【性別】女性
【年齢】??
【肩書】元アルトイリス騎士団部隊長
【クラス】アーチャー
【好きなもの】木の上
【苦手なもの】他人に触られること




