第129話 ガキのくせにそんなに偉いのかよ
「リクレール! 止めるな、今いいところなんだ!」
「いいところだから止めるんだって。さっきから戦いを見ていたけど、ゼークトも、そして君も、素晴らしい戦いぶりだ。盗賊の真似事をしているのが惜しいと思うくらい……」
「んだよお前……さっきから俺たちに偉そうな口ききやがって。しかも、これ見よがしにバカデカい禍々しい剣を背負ってやがる……ガキのくせにそんなに偉いのかよ」
「偉いよ」
「なに?」
「名乗るのが遅れたねけど、僕はリクレール・アルトイリス。アルトイリス侯爵だ」
「……アルトイリス侯爵、だと?」
黒づくめの男は怪訝な顔をしながらも、徐々に戦いの構えを解く。
その間に、心配した彼の部下たちがわらわらと集まってきた。
「聞いたことがある気がする…………アルトイリス侯爵といや聖剣アレグリアを扱う家だったはずだが、当主が交代した後、狂ったように自分の家の貴族を殺しまくったヤベェ奴がいるって噂だが…………まさか」
「はぁ、なんだその話!? リクレールがそんなことするはずないだろ!」
「いやゼークト、残念ながらその噂は半分本当だ。僕は当主となって真っ先に、命令に従わない貴族たちを粛正した。まあ、そのせいで生き残りの子供だったあの青髪の生徒……アルトーに恨まれたわけだけど」
「そ、そんなことしたのか!? ウソだろ!?」
リクレールがすでに家臣の粛清に手をかけたことを初めて聞いたゼークトは、信じられないものを見たように驚いていた。
主君がそう簡単に家臣を殺すのは、正義感の強い彼にとっては受け入れがたいのだろう。
「…………彼らはアルトイリス家に尽くさず、自分勝手なことばかりしていた。彼らがきちんと貴族の責務を果たしていれば、姉さんは死なずに済んだかもしれないのに。税をむさぼるだけで、国に力を尽くさない貴族は不要どころか、僕にとってはむしろ敵だ。だから、残らず刑場の露になってもらった。でもね、そのせいで伯爵領がたくさん余ってるんだ。僕がすべて面倒を見てもいいんだけど、ある程度は任せなきゃいけない。そこで…………」
リクレールは男の方に向き直る。
「君のその力、アルトイリス家で生かしてみる気はないかな。君はこんな山奥で強盗騎士やっている器じゃない」
「正気か? 俺のような見ず知らずの奴に、家臣になれってか?」
「今は一人でも優秀な人が欲しい。それに……君はおそらく、誰かに奪われた栄光を取り戻したいと思っているんだろう?」
「っ!?」
リクレールの一言に、男の顔がゆがむ。
まるで「なぜそれを知っている?」と言いたげな表情だった。




