第128話 黒ずくめの騎士
「威嚇射撃か。これ以上近づくなってことか?」
「侯爵様、奴らです! あの黒ずくめの野郎が、俺の部下たちを片っ端から切り裂きやがった!」
「見るからに怪しい連中だな。さしずめ、揉め事かなにかを起こして追放された貴族と、それに従う騎士どもってところか」
向こうもリクレールたちに興味を示したのか、騎士の鎧を着た50名程度の歩兵とそれを率いる黒い馬に跨った男が、要塞内から姿を見せた。
ドルドの言う通り、髪の毛から装備している鎧と盾、それに跨る馬までどれも黒ずくめであり、遠目から見るとまるで影が動いているかのようだった。
リクレールがなお求まることなく、ネージュに跨ったまま進もうとすると、今度はリクレールめがけて命中させる気満々の矢が数本飛んでくる。
「リクレール! それ以上前に出と危ない!」
「けど……!」
「ここは俺に任せろ!」
ゼークトはリクレールの前に出て、持っていた戦斧を一振りすると、たったそれだけで飛んできた矢が空中でバラバラに飛び散ってしまった。
「随分なご挨拶だな。騎士の誇りが残っているなら、コソコソ隠れてないで出てこい!」
「ちっ、せっかく追い払った賊どもがノコノコと塒を取り返しに来たのかと思えば、どこぞの貴族のお坊ちゃんが来やがった。ここは今日から俺たち黒鼬隊の領地だ。俺たちがそう決めたんだから、誰にも文句は言わせねぇからな。どうしても欲しけりゃ、力づくで奪ってみろ!」
「騎士のような恰好のくせに、山賊の上前はねて住処を奪い、あまつさえ力で奪い返せだなんて騎士の風上にも置けねぇっ! その腐った性根を叩きなおしてやる、俺と一騎打ちしろ!」
「ハッハァ! 俺様と一騎打ちしようってか!? まだガキのくせに、ケツに毛が生えたような度胸してるじゃねェか!」
「それを言うなら心臓に毛が生えた、だろうがっ!」
黒づくめの騎士はその場で下馬すると、片手剣と盾を構えてゼークトに戦いを挑んできた。
そして、そのまま二人は激しく武器で打ち合った。
「ァァ!? んだよコイツっ!? クソッ、こんのっ!」
「……っ」
(なんだ、あの黒づくめの男……確かにゼークトよりは年上ではあるけど、腕前はほぼ互角だ! )
リクレールは二人の戦いを見て、相手がかなりの腕前だと感心した。
ゼークトは平民出身にもかかわらず、紫鴉学級の中でも特に武芸に優れた生徒であり、現在在籍している生徒の中でもほぼトップクラスの強さを誇っている。
はっきり言って、彼の腕前であればセレネの遠征についていって活躍するのも夢ではなかっただろう。
そんなゼークト相手に、互角に戦うとは……
『主様、どうやらあの男、なかなかの遣い手と見受けられますわ。扱いには難儀しそうではございますが、家臣に出来れば相当な戦力となることでしょう』
(僕もそう思う。今は一人でも人材が欲しいって言うのもあるけど、あれだけの強さの人は貴重だ)
そんなことを考えている間にも、すでに二人は数十合に渡って武器を打ち合い、凍える風が吹きすさぶ中にあって額に幾筋も汗が流れていた。
「やっぱ、ただ者じゃねぇな。だが、これならどうだ!」
ゼークトは戦斧を地面に突き立てると、その勢いを利用して飛び上がり、黒ずくめの男の頭上から戦斧を振り下ろした。
「うぉっ!?」
男は慌てて回避したが、戦斧が地面を叩き割り、石の破片が飛び散る。
「ちっ、今のを避けたか」
「あぶねぇあぶねぇ、俺様じゃなかったら危うく地面のシミだったぜ! だがな、お前らと違って潜り抜けた修羅場の数がチゲェんだ!」
相手の騎士はよけたままの態勢で右手に持った剣を地面に突き立て、短い呪文を唱えた。
「浮石弾」
「なにっ!?」
剣を突き立てた周囲の地面が破片となって男の周りに浮き上がり、ゼークトめがけて飛来する。
ゼークトは戦斧を盾代わりにして破片の雨を防ぐが、その間に男は剣と盾を構えて突進し、ゼークトに斬りかかった。
しかしゼークトもやられっぱなしではいられない。岩の破片の直撃で体の数か所に浅い傷ができたが、斧を振るタイミングがないと踏んだ相手に対して、的確に蹴りで反撃する。
「往生際が悪ィんだよ!」
「テメェのほうこそな!」
「二人とも、そこまでだっ」
「「!?」」
双方がいよいよムキになってきたところで、リクレールが争いを止めに入った。




