第124話 多かろう悪かろう
自分のあずかり知らぬところで意外な人物に評価されたリクレールは、式典の順番が終わるや否やすぐに大要塞を離れると、そのままタウンハウスに戻ることなく帝都郊外まで一直線に駆け抜けた。
そして、日が暮れる前にはアルトイリス家やコンクレイユ家の旗が掲げられた陣地に到着し、レイたちが出迎えてくれた。
「おかえりなさいませご主人様。ご命令通り、タウンハウスの物品はすべて引き払いました」
「ありがとうレイ。ほかの人たちも全員集まってる?」
「はい、主要な方は全員この陣地に集結しております。詳細はこちらの資料をご確認ください」
3日前から各チームが動き出したときから、集合場所をこの陣地にすると決めていたからか、全員スムーズに集合することができた。
さらに、レイから受け取った資料にはこの3日間で各人がかき集めた兵士や労働力の数が記載されており、思っていたより多く集まっていることにリクレールはひとまず安堵の笑みを浮かべた。
「リクレール様! 無事お戻りになられましたか! 御覧の通り、金に糸目をつけず大勢の兵を雇ってまいりましたぞ!」
「流石はガムランだ、お金だけじゃなくて人を集めるのも得意なんだね」
「にょほほ、それほどでもありますなぁ!」
ガムランの案内で陣地に大勢の傭兵が集まっているのを見たリクレール。兵士にはならない労働者も含めれば、総数はなんと1万人以上にもなり、これだけいれば多少の困難は何とかなるのではないかと思えるほどだった。
「しかし、彼らを雇ったはいいものの、某から見ましてもあまり質が良いとは言えませぬな。すでに何件か暴力沙汰が発生したと報告を受けておりますぞ」
「それはまあ、仕方ない。今は何より数が必要だ、今はアルトイリス領まで連れていくことを優先して、帰ったらアンナのところで訓練させよう」
「それもそうですな。これだけの兵がいると、日々の給金も馬鹿にはなりませぬが、某がたっぷり蓄えた軍資金にはまだ大幅な余裕がありますし、彼らが消費する食料や物資の大半はあのドワーフ兄妹が仕入れておりますゆえ、今のところは実質タダ同然ですな!」
「あはは……君も悪だね」
そう言ってガムランは、北方で軍資金と共にたっぷり蓄えてきた腹を揺らしながら笑い、つられてリクレールも苦笑いする。
「いえいえなんの、リクレール様ほどではありますまい。せっかく稼いだ軍資金の一部をわざわざミュレーズ家に献金すると聞いた時は、正気に沙汰とは思えませんでしたが……リクレール様はむしろあの程度の額で膨大な恩を買ったわけですな」
「ああ、セレネには悪いけど……ミュレーズ家は露骨にアルトイリス家を切り捨てにかかっている。でも、これから先は何かとミュレーズ家とのつながりは維持しておいた方がいいし、セレネのためにもなる」
東帝国の皇帝が見抜いていたように、リクレールは自分の家が厳しい状態のときにあえて身銭を切って見せたことで、ミュレーズ家のみならず周囲の諸侯にも好印象を与えた。
だが、それだけでなくリクレールは事前に「とある噂」を流して、ひっそりとミュレーズ家の世間体が不利になるよう仕向けたのだった。




