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聖剣を継げなかった少年は、魔剣と契りて暴君を志  作者: 南木
第6章 進む東帝国、乱れる西帝国
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第122話 絶対に死なないでね

「えっ!? そ、そのたくさんの金貨は……!?」

「ミュレーズ家には日ごろ何かとお世話になっていますし、何よりこそ先は何かとご入用でしょう。まだ先日の戦いの傷が癒えておらず、以前のように戦うことができないアルトイリス家ですが、せめてもの力になればと思い、この軍資金を贈らせていただきます」

「は、はいっ! ありがとうございますっ!」


 リクレールが差し出した軍資金は100,000リブラという大金で、実は財政的にあまり余裕がなかった遠征軍としては非常にありがたい贈り物であった。

 これだけの資金があれば、当面は兵糧や武器の調達に苦労することはないだろう。

 セレネはリクレールからこんなにたくさんの資金を貰えたことに、嬉しさを通り越して困惑してしまったが、断る理由もないのでありがたく受け取った。

 しかし、軍師のインテグラだけは、最後までリクレールからの献金を受け取っていいものか悩んでいた。


(アルトイリス候は何を考えている? 確かにこの軍資金は非常に助かるが、あまりに親切すぎる。そもそも、候が本当に善意だけでセレネ姫に贈り物をしたのか? いやしかし、この少年がそこまで打算的なことを考えるとは思えないし、仮にそうだとしてもその目的が理解不能……何より、アルトイリス候はどこからこれだけの資金を捻出した? 領内の再建で資金が喉から手が出るほど欲しいのは、むしろアルトイリス候の方であるはず。セレネ姫様は何の疑問も抱かず受け取ったが、場合によっては早計であった可能性も否定できない。しかし……)


 あからさまに怪しいとわかっているが、セレネが受け取ってしまった以上断ることはできない。

 それに、インテグラにとっても目の前の大金が軍の運営にとって非常に魅力的なものであることは否定できない以上、目に見えない毒とともに呑み込むほかなかった。

 その間にも、限られた面談時間は刻々と過ぎてゆく。リクレールはセレネだけでなく、周りの騎士や将たちにもねぎらいの言葉をかけた。


「エンヴェル様、聖槍バリエントと共に西帝国にまでとどろく勇名を期待しています」

「ああ……アルトイリス候、俺の活躍が耳に入るまで、決して死なないでくれ」


 リクレールの事情を知っているエンヴェルは、そう言ってリクレールの身を案じていた。

 彼のおかげで青狼学級が味方になったことで、この先の戦いがかなり有利に進められると思うと、リクレールは改めて感謝せずにはいられなかった。

 その一方で、かつて自分のもとを去った者たちにも、リクレールは激励の言葉を伝えた。


「シェリンさん、エンデルクさん、僕のことは心配しなくていい。言わなくても分かっていると思うけど……姉さんの代わりに、聖剣の主を守ってくれ」

「もちろん、そのつもりです侯爵閣下。次こそは、この身を挺してでもお守りします」

「…………」


 リクレールの言葉はある意味皮肉に満ちてはいたが、同時に本心でもあり、新しい主となったセレネを守ってほしいと強く願った。

 シェリンは少々後ろめたく感じつつも、リクレールの言葉を素直に受け取った。

 だがエンデルクは、まだリクレールに何か思うところがあるのか、無言のまま顔をそらし、交流を拒絶したのだった。

 そして最後に、ほかの人たちもそうしたように、リクレールたちはセレネと握手を交わす。

 ヴィクトワーレ、シャルンホルスト、と続いて最後にリクレールがセレネに手を差し伸べる。

 リクレールは名残惜しくならないように、あえて軽く握るだけで終わらせようとしたのだが…………セレネはリクレールを腕ごとぐいっと引き寄せた。


「っ!?」

「リク君……お願い、絶対に死なないでね」

「……ああ、僕は絶対に死なない。だから、セレネも死なないで、僕のために」

「うん」


 引き寄せたリクレールの身体をぎゅっと抱きしめ、唇同士触れそうになるほどの距離で、小さく、しかし力強くつぶやいた。

 それに対してリクレールは頭の中が真っ白になり、無意識でセレネに言葉を返す。

 周囲が慌てて止めに入ろうとしたが、二人の抱擁はほんの一瞬で終わり、その瞬間に面談の時間も終わったことで、双方は何事もなかったかのように離れていった。

 インテグラはその場で問い詰めたい気持ちをぐっと抑え、淡々と次の面会者を呼び出す。

 そして、突発的に動いてしまったセレネは少しの間頭が真っ白になって何も考えられなくなり、リクレールもまた、ヴィクトワーレとシャルンホルストに心配されながら、心ここにあらずといった表情で大広間を後にしたのだった。

 ともあれ、これで東帝国でやるべきことはすべて終わった。

 控室に戻ってようやくリクレールは我に返り、急いで帰り支度を始めるのだった。

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