第12話 三者択一
一方リクレールも、怒涛の3日間を終えてようやく一息つくことができたことで、ふぅと大きくため息をつきながら自室のベットに転がった。
「あー……つーかーれーたー。もうクタクタで脚が痛いよ」
『よくぞ次期当主としての初のお仕事を滞り行われました。やはりわたくしが見込んだだけはありましたわ。本日はゆっくりお休みに…………と、言いたいところですが、主様にはもうひと働きお願いしたく存じますわ』
「え、まだ何かやることがあるの……?」
『はい、それも今後のお家の発展にかかわるとても重要なことですわ』
「そんなに重要なことなの! だったら話は別だ、早く聞かせて!」
先ほどまでの「これ以上は何もしたくない」と言いたげな雰囲気はどこへやら、領地の発展にかかわるという言葉を聞いて、リクレールは急にやる気を取り戻した。
『まず、主様の記憶とここ3日間の観察により推察しますに、セレネ様の騎士団に移籍が決まっている騎士団には、特に有力な将が3名いらっしゃいますわ』
「エンデルクさんとアンナさん、そしてシェリンさんのことだね。あの人たちは姉さんとは仲が良かったけど、僕はあまり話したことなかったな」
先の戦いで壊滅的被害を被ったアルトイリス家の騎士団の中で、数少ない生き残りの武将が、リクレールが今名前を挙げた3人だった。
エンデルクは身長7スリエ(約213cm)に迫る身長を誇る大男であり、性格は勇猛果敢だが冷静さも兼ね備えるベテランの騎士だ。
騎士団では主に重厚な鎧を身にまとった重騎士を率いており、その防御力で前回の戦いも何とか味方の救援まで持ちこたえた。
アンナとは元々傭兵出身だったが、戦場での功績によりマリアから騎士に取りたてられた歴戦の女戦士である。
騎士団では弓兵隊を率いており、貴重な遠距離からの援護役として重宝されていた。
シェリンもアンナと似たような経歴の持ち主で、遠く北方から流れてきた流浪の遊牧民だったが、戦場での活躍で騎士として認められた。
遊牧民出身だけあって、彼女の部下共々軽装の弓騎兵であり、遊撃を得意としていた。
『事情ゆえに3名全員は不可能でございますが、お1人のみであれば今から移籍を思いとどまらせることも可能でしょう』
「そ、そんなことができるの?」
『確実……とは保証いたしかねますが、主様のお言葉次第で十分可能と思われます』
「僕次第か……となれば、説得するのはアンナさんがいい」
『ふふ、流石は主様、目の付け所が素晴らしい。あえて申しませんでしたが、わたくしも同意見ですわ』
果たして、リクレールとエスペランサが目を付けたのは、元傭兵出身のアンナだった。
リクレールとエスペランサは、アンナの移籍をとどまらせるべく、すぐに行動に移ったのだった。
【用語解説】スリエ
長さの単位の一つ。現実換算すると約0.305メートル(30.5cm)
スリエとは「靴」という意味で、成人男性の靴一足分の長さが由来とされている。
元々は距離を測る単位だったらしいが、距離を測る単位はもっと便利なものがあるため、現在はおおむね人の身体や、武器の大きさ、建物の寸法に使われる。




