第117話 心強い仲間
「あら、リクレール君、あなたも来ていたのね」
「……青狼学級も西帝国に行くのか? ならば、うちの学級も参加させてくれないか」
「ウルスラ先生っ! それにベレイム先生まで!」
リクレールたちの元にやってきたのは、学内で協力者を募っていたウルスラと、頬に大怪我を負って包帯を巻いている小太りの男性教師ベレイムだった。
ベレイムは橙鷹学級の担任にして、先日のリクレールとアヴァリスの決闘でわざと不良品の武器を用意した挙句、激高したアヴァリスの剣で頬を切り裂かれてしまった人物である。
「ルクレール君、私が間違っていた。デュカス殿に言われるまま不正に加担したが、終わってみれば生徒から傷つけられたことへの謝罪の一つもなく、むしろこちらに責任転嫁してくる有様……私はこの通り情けない教師だが、プライドまで失くしたわけではない。我が学級も、生徒たちの総意で実戦演習に参加する。しかし、このケガでは指揮をすることもおぼつかん。よって、ウルスラ君とローレル君で、生徒たちの面倒を見てやってくれ」
そう言ってベイレムは、リクレールやウルスラ、ローレルたちに深々と頭を下げた。
そんな中、元担任のウルスラがローレルの姿を見て意外そうな表情をしていた。
「まさかローレル先生に協力していただけるなんて、ありがたいことではありますけど……」
「ふん、私はあくまでエンヴェルに頼まれただけだ。お前のために力を貸すわけではない、そこのところを勘違いするな」
そう、ウルスラとローレルは同じ女性教師でありながら、あまり仲が良くないのである。
この二人の確執の原因はお互いが語らないので不明だが、温厚なウルスラと厳しいが正義感の強いローレルがお互いを嫌いあうのは、相当な理由があるものと思われる。
相性の悪い教師同士が本物の戦場に生徒を連れていくことに、リクレールは一抹の不安を覚えたが、ともあれエンヴェルのおかげで一気に仲間が増えたことで、戦力もぐっと高まったことは間違いない。
「ありがとうございます、エンヴェル先輩! おかげで、スムーズに仲間が増えました!」
「なに、このぐらい朝飯前だ。けど、無茶はするなよリクレール。もし内乱で不利になったら、遠慮なく俺やセレネに助けを求めろ。可能な限り助けてやるから」
「先輩こそ、僕たちの代わりに魔族軍と戦ってくれるんですから……よっぽど大変だと思います。だから、僕から先輩にはお礼として軍資金を援助させてください」
「軍資金の援助!? いや、確かにありがてぇけどよ、そこまでのことはしてないぞ?」
「遠慮しないでください。このお金で先輩が活躍することができたのなら、死んでしまったマリア姉さんの無念が少しは晴らせるかなって……」
「……ったく、お前も大概素直じゃねぇな。じゃあ、この金はありがたく使わせてもらうぜ。何しろ俺はまだまだ貧乏だからな、シルランティスの食費がかかっていけねぇ」
こうしてリクレールは、青狼学級を説得してくれたお礼として、エンヴェルにそれなりの額の軍資金を援助した。
やったことに対する報酬としてはあまりにも多すぎるが、エンヴェルやセレネたちが暴れることで、内乱目前となった西帝国に魔族軍の矛先が向かないようにしたいというリクレールの思惑もあり、エンヴェルは最終的にこの金を受け取ることにしたのだった。
「ご武運を、エンヴェル先輩」
「リクレールこそ、死ぬなよ」
二人は名残惜しそうに別れの言葉を交わすと、それぞれが自分の次の仕事へと取り掛かり始めるのだった。




