第116話 青狼学級
「せ、先輩! さすがにそこまでしなくて、今は忙しいでしょうし!」
「そうでもないさ、士官学校に行って帰ってくる時間くらいある。…………本当なら、俺自身がお前の助けになりたかったが、このタイミングなもんだからそれは叶わん。だからせめて、後輩たちには、お前やシャルンホルストの力になってやってもらわないとな」
「リク……あなた、いつの間にかエンヴェルの弱みを握っていたりしない?」
「してないよっ! で、でもここまでしてもらうからにはきちんとお礼をしておかないと!」
親しかったとはいえ、学級が違うOBのエンヴェルがここまでリクレールに入れ込む理由はよくわからなかったが、ともあれ彼自身の助力を得られるのであれば、紹介状なんかよりもよっぽど強力だろう。
果たして、エンヴェルは買ったばかりの月毛馬シルランティスをかっ飛ばして、リクレールたちすら追いつけない速度で士官学校に赴くと、そのままの勢いで青狼学級にやってきて西帝国の内乱解決に協力してほしいと頼み込んだのであった。
「ぜぇっ、ぜぇっ……先輩の馬、速すぎ……あんなの誰も追いつけないよ」
「ご、ご主人様……わたくしは少し目を回してしまいまして」
「私の馬だって侯爵領で一番速い子なのに……速度が桁違いだわ」
「はっはっはー! シルランティスもちょうどいい運動になっただろ! それよりリクレール、お前の望み通り、俺からあいつらに事情を説明してやったら協力してくれることになったぞ!」
「まったく…………卒業してもなお、お前のやんちゃさは変わらんなエンヴェル。聖槍バリエントを受け継いだ騎士らしく、もう少し落ち着いたらどうだ」
エンヴェルの隣にいる、燃えるような赤髪をセミロングにし、ピシッとした黒い軍服を身にまとった妙齢の女性……青狼学級の担任ローレルはため息をつきながらも、リクレールに対してその鋭い視線を向けた。
「白竜学級や藍熊学級、黄獅子学級らが我らに一言も相談せずに実戦演習へ赴いたことは大変遺憾だが、だからこそ、我が学級を巻き込む事態は避けたかった。しかし、こいつの話を聞いたらうちの学級の生徒どもが随分とやる気になってしまってな」
「またまたぁ、センセーだって介入する理由を探してたんじゃないの? うちのセンセーは素直じゃないから」
「黙れエンヴェル。また学生の頃のようにしつけしてやろうか?」
「ま、まあまあ、先輩は一言多いだけですから……でも、ローレル先生や青狼学級が手助けしてくれるなら、とってもありがたいです!」
ローレルはその鋭い目つきと氷のように冷たい性格で生徒たちから恐れられているが、彼女が学生たちを思う気持ちは本物で、それをわかっている青狼学級の生徒たちも団結力が強い。
それに、生徒間でも紫鴉学級と青狼学級は比較的仲が良く、自分たちを見下してくる白竜学級に対して何度か共同戦線を張ったことがある仲だ。
にもかかわらず、エンヴェルの紹介がないと話がうまくまとまらなそうだと思ったのには、とある事情があった。




